tk × in短編集② (ページ11)

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次の日、雄也は城の中を馬に乗せて案内してくれた。
『足怪我しているように見えたから』そう微笑んだ姿にやはり好きだと確信した。
実際歩く度に悲鳴を上げたくなるほどの痛みを感じるのだ。今は多少慣れたが、それでもどれ程の距離を歩けるかは分からない。

馬の上から見た色とりどりの花や整えられた大きな池、沢山の使用人に貴族たち。目に映るものすべてに興奮しては言葉で伝えられない分瞳や表情、仕草で表した。

「…君、もしかしてさ、喋らないんじゃなくて、声が出せないの？」
夕暮れ時、そろそろ部屋に帰ろうと手を差し出した雄也に聞かれ、小さく頷いた。

「そっか…。
寂しいな。でも、今日は楽しかったでしょ？すごく伝わってきたよ」

一瞬寂しそうに俯いた雄也を心配したが、その言葉に全力で頷く。

楽しかったよ。あんなに楽しいのは生まれて初めてだった____
そう伝えるように。

雄也は安心したように笑った。

部屋に帰るまでの廊下、雄也は一言も喋らなかった。
やはり話せない相手に対して一方的にずっと話しかけようなんて、普通は思わないだろう。

当たり前だけど、寂しい。雄也の話なら何だって、いくらでも聞くのに。
そう思ったのも束の間、部屋に入った途端雄也はタカが外れたように喋り始めた。

「今日疲れたでしょ？先にお風呂入っていいよ。あーでも、今日は1人で入ってね。なんか今日君と一緒に入ったら変な気起こしそうなんだ。あ、引くなよ？」

ぽかんと突っ立っている俺を気にも留めず、さっさと俺の着替えを準備する。

「はい。…あ、さっき廊下で喋んなかったのは、俺一人だけずっと喋りかけてたら周りに変に思われるだろ？別に嫌になったとかじゃ全然無いから。」

ぽん、と頭に手を置き、にっと笑う。
ありがとう、そう笑い返した。

夕食を済ませベッドに入る。
やはりふかふかのベッドはとても不思議で、とても気持ちがいい。
何やらまた執事と話していた雄也が部屋に帰ってくるまでこのふかふかの上で遊んでいようと目論み、海の中で泳ぐような仕草をやってみたり、おしりで跳ねてみたりした。
うん、やっぱり楽しい。これが海の中にもあればいいのに。

ガチャ、と部屋のドアが開く。帰ってきた雄也の少し暗い雰囲気に何かを察した。

「…」
「あ、ごめん、ただいま。遅くなってごめんね？」

フルフルと首を振る。

「…明日は、少し城の外に出ようか」

そう言った雄也がなんだか遠くを見ていたのには、気付かないフリをした。

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