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(……………にじかん、)
まったく進んでくれなかった筈のアナログ時計の短針は
いつのまにかぐるりと廻っており、
すでにもうすぐ二周目に入ろうかというところだった。
普通はいったいどれぐらい時間がかかるものなのかと不安に襲われるが、
生々しい表現をすれば要するに人間から人間が出てくるのだ、
それはそれはとんでもない一大事である。
只事ではない壮絶な場面なのだと改めて感じながら、
隔てられたカーテンの傍まで歩み寄っては戻り、歩み寄ってはまた戻り、を繰り返す。
もう何度目かわからない溜息をか細く漏らすと、
カーテンの向こう側の空気や音の色が明らかに変わった。
そうして少しの間を置いて、俺の耳へと届いた声。
(…!!)
それは決して大きいと言えるようなものではなかったが、
芯があって力強い声だった。
真っ直ぐに染み渡るその声を聴きながら、
じわじわと滲んでくる涙。
拭っても拭ってもぼやける視界。
産まれた。…産まれた?俺が、父親。
「、っ…」
確かに、父親になったのだ。
我が子が外の世界へ出てきてすぐに
自分の力で息を吸うことを覚えたであろうその頃、
俺はその部屋の外に立ち尽くしたままで、
うまく息を吸うことが出来なくなっていた。
まずAの顔が見たい、
そして大切に守り慈しみ育ててきたそのちいさな奇跡…ありきたりな表現ではあるが、
たくさんの愛が込められた証を、早くこの腕で抱きしめたい。
そう思った。
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作者名:まいち | 作成日時:2017年9月15日 3時