愛してる、愛してない【文スト】 (ページ24)

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・　バーにて(3) ページ24

「雨宮リイナ…太宰の部下か。
……最近の太宰はどうだ？」

グラスに口をつけたあと、オダサクは首を傾げる。

「太宰は変わらず、いつも通り。
私に笑顔で接してくれる。
……でも、最近は芥川にずっと教育してるかな」

笑顔を崩さないように慎重に言葉を並べる。
………でも、きっとオダサクが聞きたいのはこれではない。

太宰にはこんな珍しい事があったとか、そんなことが聞きたいんだと思う。

だが、私が脳裏に浮かんだのは
今オダサクに伝えたことだけ。

私自身、頭が真っ白になっている事がよく理解ができた。

「そうか、いつも通りそうだな。」

オダサクは優しく微笑み、またグラスにつける。
そのグラスから口の中へ酒が運ばれていく様子を私はぼうっと、見つめていた。

その光景があの時、ここで…このバーで太宰をこうして見つめていた時と似ていた。

彼と一致しているその表情。

そのようすに気づいたオダサクは私を
「？」とした表情で見て…

「どうした？」

と、首を傾げる。
だが私の目には

……『どうしたの？』

と、私に笑いかける太宰が映されていた。

「だざ…」

手を伸ばすとオダサクの姿がはっきりと見えていた。
ハッとした私は彼が太宰では無いことに気づく。

「……少し疲れているんじゃないか？
俺は太宰ではない」

真面目な顔をしてオダサクは私を見る。

「あ、えっと…ごめんごめん！
ちょっと疲れてて…」

疲れてはいない。
これはきっと、太宰に捨てられる人生に色が無いことを象徴しているのだろう。

幻覚が見えているというやつだ。

それから、ポツリポツリと一言二言の言葉を私たちは交わしたあと…オダサクはすぐにこの場を立ち去った。

立ち去る前に彼は言った。

「太宰と似てきたな。お前」

オダサクのあの言葉がずっと脳裏から放れようとしない。
それと、見えてしまった幻覚。

───そして太宰と会った日のこと。

太宰に捨てられる前に1度精密に思い出しておきたかったのだろうか。

それとも、その日を知っている彼の影響からなのか……

私はぼんやりと太宰と会った日のことを思い出していた。

その日は、雪の日。

『………ねぇ、君。その………で、
私を殺してくれないかい？』

冷たい雪の中で冷酷な表情をした彼は、息を吸うかのように簡単に私にそう言った。