40 おいしい思い ページ40
1分も経たないうちに
最初の走者が位置につく。
キュッと体育館の床を靴が擦る音すら段々と少なくなり
何も音が聞こえなくなる。
「位置について」
心臓は…
「よーい」
うるさいのに
「ドン」
頭の中はやけに冷静だった。
「□□頑張れ〜！」
体育館が音に包まれている。
私も応援はしているけれど
でも、私の周囲だけ…
何か膜が張っているような。そんな感覚。
□□から△△へバトンが渡る。
現在1位が少し出ていて、私達は2位とほんの僅かな差で3位。
全チーム女性実況者の走者になって少しスピードダウン。
「いっけ〜!△△！」
△△は2位と3位の差をさらに縮めて
ほぼ団子のような状況になった。
△△からキヨくんへバトンが渡った。
もう次は私の番なのだとトラック内へ出てゆっくり息を吐く。
勝負が動いた。
団子だった状況からグッと抜き出た。
彼の手足が切る空間はやたらに広い。
ブロック席からはもはや悲鳴のような歓声が聞こえる。
バトンを受け取る準備に入る。
「キヨ！」
「コハク！」
キヨくんから私にバトンが渡された。
後ろからの風圧と声、あとは自身の意志で
わりとポンッと軽く押し出されるような
でも、足に力が入っていないわけではない
床を思いっきり蹴る感覚。
コーナーの半分を過ぎたあたりで脳にピシッと司令が走る。
あ、今だ。
体がドンドンスピードに乗っていく。
直線の3/4を過ぎて次に広がったのは
今まで追っていた背中ではなく
前に誰もいなくなったコーナー。
内側を攻める。
ドンドン、ドンドン、ドンドン
体がスピードに乗っている割に
冷静に体は遠心力を殺すため内側へと傾いている。
15mの直線はほんの一瞬。
ピストルの音で脳内の何かが解かれて
歩きながらすぐさま3人に、わやくちゃにされた。
「やった…？」
「すっげぇぇぇ！！」
「かぁぁっこいぃぃぃ！！」
□□と△△が興奮しながら
「1位だよ！コハク！」
キヨくんが伝えてくれた。
「良かった…良かったぁ…！」
会場が声だけで地響を起こすのではというぐらい
盛り上がった。
――――――
「まぁ楽しかったけどさ。」
一生忘れない感覚。
いろいろあるけど、やっぱり私はこのタイプで
好きでやってるんだなと再確認した瞬間でもある。
本当に私はいい思いをさせてらっている。
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作者名：みこと | 作者ホームページ：http://なし)ー
作成日時：2022年6月14日 20時
