Whitelight DLC【実/況/者】 (ページ28)

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28 何も考えていない人ページ28

「30秒前〜」

本番までのカウントダウンが始まった。

「あれ？コハクいなくね？」

うっしーに言われて気がついた。
少し慌てて周囲を見回すと2列ほど前に姿が見えた。

出演者の一人に声をかけていた。
似たような光景を極稀に見るし、
俺だって生まれてはじめて大きな舞台に立ったときは
今では考えられないぐらい上がっていた。

周囲の音に負けないよう、その人が安心出来るように
背中に手を当てながら話しかけている彼女の横顔を見た。

カンカンカンと階段を登る音が聞こえるとほぼ同時に

「お願いしま〜す！」

コハクの声がした。

それぞれに返事をしている
全員の士気が上がっているのが目に見えて分かる。
本番5秒前。コハクが舞台袖の定位置に着いた。

「4、3、2、1」

音楽が流れ出した。

舞台袖のほんの少しだけ高くなっている踊り場では
今回の総合司会者であるコハクが
わざと高い位置に手を置いてみたり、両手でしてみたりと
様々なハイタッチをしている。
俺は片手でごく普通のハイタッチをした。
出演者が次々にステージへと上がっていく。

最後にコハクが出てくると
地響きを起こせるような歓声が上がった。

――――――

今は二次会。とりあえず全員が注文を終わらせた。

「え、まだ飲むの？」

「流石に好きなん飲めてないもん。」

「まぁ確かにあの席だとな。」

「次から次に来るからねぇ…笑」

一次会では総合司会のコハクに
色んな人がお酒を注ぎに行っていた。
俺らも一応注ぎに行った。

コハクはお通しの白あえを食べて幸せそうな顔をした。

「そういやさぁ、あの子は緊張してたの？」

「あ〜あの子？開始5分前ぐらいから震えてたよ？」

「え、そんなところまで見てるの？」

注文した物が一気に机に運ばれてきた。
乾杯を済ませ飲み物を体内へと通す。

「は〜たまら～ん。」

大好きなお酒を喉に通せたコハクは心底幸せそうだ。

「な～んにも考えてなさそう。」

「うん。な～んも考えてないよ。」

その言葉通りであってほしい。

彼女は絶対に敵に回してはいけない。
そう改めて確信した1日だった。