百八十五。優しく触れる ページ5
一通り案内を終えた後、それぞれ入浴するために1階のお風呂場へ続く廊下で智くんと別れる。
今夜も慶子さんが溜めてくれた檜風呂に心ゆくまで浸かれば、すっかり身体が温まって
湯処を出て、居間の慶子さんにお礼に一声かけると、3階の自分の客間に戻っていった。
.
「はぁ、…」
一日を終えて部屋に入れば、自然と吐き出してしまう溜息。
気が付けば、ここへ来て1ヶ月が経った
来る日も来る日も、どれだけ料理に没頭しても
どれだけ技術を磨いても
どんなにお客様の笑顔に出会えても
心の奥、どこかにポッカリと空いた穴が埋まらない
“胸を張れる私になれたら…もう一度、翔さんのそばに私を置いて欲しい”
胸を張れる私って、どんな私？
いつまでもその答えに辿り着けないまま
私、どうしたらいいんだろう
.
＿＿＿コンコン
そんな風にボーッと思い巡らせていると、部屋の扉の向こうから『A、いる？』と声がして
そっと扉を開けると、お風呂上がりの洗い晒しの髪の毛のまま、無造作に首にタオルを掛けた智くんが立っていた。
『お疲れ。これ、慶子さんがAに渡しそびれたって。今上がってくる時にもらった』と言って、ミネラルウォーターのペットボトルを私に差し出す。
「あ…ありがとう」
ミネラルウォーターを受け取る私をジッと見詰めた彼が、『ちょっと話さない？』と言うから
そのまま私の部屋に智くんを招き入れた。
.
『…手、荒れてんな』
ドレッサーの前に腰を落とす私の隣
胡座をかいて座り込んだ智くんが、私の手元に視線を落としてそう言った。
「あ、うん…ちょっと色々没頭しすぎて、いつもよりお手入れを怠っちゃって」
開店準備中に慶子さんから頂いたハンドクリームを思い出して、バッグから取り出す。
『貸して』
え？
『塗ってやるから』
そう言って、真っ直ぐな瞳で私を見詰める。
「…」
自分で塗るからいい、と断ろうとしたところで、智くんが間髪入れず私の手からハンドクリームを取り上げた。
躊躇なく私の手を取って、そっとクリームを塗り込み始める
まるで、壊れ物に触れるように丁寧に
そっと、優しく
.
『…そんなに、気になんの』
しばらくの沈黙を破って
尚も私の手に丁寧にクリームを塗り込んでいた智くんが、そっと口を開いた。
『水商売って言われたこと。そんなに気になんの』
彼が口にした思わぬ言葉に、思わず目を見開く。
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miihoo(プロフ) - こんにちは 以前コメントさせて頂いた者です。また読み返してみました。お仕事お忙しいのでしょうね。気長に更新待ってます。大好きなお話なので。 (2022年6月12日 18時) (
レス) @page9 id: 1ac01d1ff9 (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - 初めてコメさせていただきます。智くん担の私としては…やっばり智くんと結ばれて欲しかった。こんなにも主人公ちゃんを心から想っている智くんの気持ちが切ない😭 (2021年10月16日 11時) (レス) @page9 id: bd0ebe94fc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ティファニー | 作成日時：2021年10月10日 15時
