百七十二。再修行 ページ22
昌宏さんは私より9つ上の、36歳。
松玄邸の2代目である昌宏さんのお父さんの昌一さんは、数年前に身体を悪くしてから店に立つ数が減ったと聞いた。
現在の実質の店主は、昌宏さん。
普段は昌宏さんと住み込みの板前さん、見習いの男の子を含めた3人で店を切り盛りしている。
旅館の方はお母さんの慶子さんが女将で、昌宏さんの一回り歳下の妹、茉由ちゃんが若女将として現在修行中だ。
松玄邸の初代板前であるお祖父様は、私のおばあちゃんと同じ年に亡くなられて…
幼い頃から年に一度、おばあちゃんと食事をしに金沢を訪れては、我が孫のように可愛がってくれたことをよく覚えている。
昌宏さんは、修行入りするまではすごくたまに会う、面倒見のいい遠い親戚のお兄さん、といった位置付けだった。
時を経て20歳で修行入りさせたもらった時も、時に厳しく時に優しく、お父さんの昌一さんと一緒になって親身に料理を教えてくれて。
“魚は下処理が命だぞ”
“頭は割って、しっかり水気を取る”
“内臓とエラは腹開きで処理。初めに入れる切れ目で味の入り方が変わる”
“肉は火を通しすぎたら硬くなる。焼き始めに集中して”
“衣はつけ過ぎないこと。卵は滑らかになるまで溶くこと”
ここで学んだことは、数知れず。
“しっかりAを育てなきゃ、トシ子さんに顔向けできねーからな”
昌宏さんはいつもそう言って、本当にたくさんのことを教えてくれた。
代官山に私の店、“こころ” を開店する時も足を運んでくれて、自分のことのように喜んでくれたことが、まるで昨日のように思い出せる。
今回、なぜ再び下宿に来たのか。
松岡家の誰も、そう尋ねてくることはなくて。
『好きなだけ居たらいいからな』
昌宏さんはそれだけ言って、それ以上探るようなことはなかった。
今は…そんな計らいが、心から有難い。
.
「昌一さん、昌宏さん。今の私の料理、食べてみて頂けますか」
“お手伝い” という名目で再修行を始める初日の営業前、お2人に私の料理を評価してもらうことになった。
『Aちゃん。本音で良いんだね？』
昌一さんのその言葉に、緊張が走る
「…はい。もちろんです」
昌宏さんは、そんなお父さんの様子を窺いながら沈黙を貫いて。
昌一さんが口を開くのを待った。
.
『全体的に、合格点ではある。だが、素材を活かしきれていない』
重い一言に、息を呑む。
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ゆり:)(プロフ) - このお話が大好きで再開してくださり、とても嬉しいです。取材を受けられるなんてすごいですね！お店に行ってみたいです！ (2021年10月5日 20時) (
レス) @page31 id: 4c9de357d4 (このIDを非表示/違反報告)
miihoo(プロフ) - こんばんは。お仕事の方もお疲れ様でした。更新もありがとうございます。私もざっくり飲食関係の仕事なので身近に感じて毎回楽しみにしています。そしてこのお話の翔ちゃんが大好きです。続きを楽しみにしてますね！ (2021年10月2日 19時) (レス) @page27 id: 4ea876c979 (このIDを非表示/違反報告)
nao(プロフ) - 続きが楽しみです！楽しみにしています！！ (2021年9月19日 18時) (レス) id: afb0ab4a24 (このIDを非表示/違反報告)
shi(プロフ) - こんばんは。元彼女め…とモヤモヤしますね( .. ) この後の展開がドキドキです！！更新楽しみに待っています！ (2021年5月29日 21時) (レス) id: 4f699932a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ティファニー | 作成日時：2021年5月23日 0時
