百七十一。松玄邸 ページ21
石川県金沢市。
日本文化財指定の庭園、兼六園のそばに位置する老舗料亭の一つに、“松玄邸” という日本料理屋がある。
20歳で都内の調理師学校を卒業してすぐ、私が修行に訪れた場所。
代官山に自分の店を持つまでの約4年間、この店でひたすらに腕を磨いた。
一から出直すなら、ここしかなかった。
.
『A、そろそろ上がんな。あとは俺がやるから』
この3代目の板前である昌宏さんのお祖父様は、私のおばあちゃんの古くからの友人で。
幼い頃から家族絡みでよく知る間柄だ。
『お袋が宿の檜風呂にお湯溜めたから今日は早く帰ってこいって。お前、ずっと寝不足だろ。ちゃんと身体休めな』
“親父も心配してるから”
そう昌宏さんに促されて時計を見ると、21時。
店が閉まる時間まで、まだ2時間ほどある。
気が付けば金沢へ来てから、2週間弱。
毎日朝から晩まで料理に明け暮れて、少々睡眠不足なのは確かだった。
「じゃあ…少し早いけど、お言葉に甘えて。昌宏さん、ありがとう」
私が素直にそう答えると、彼は私の頭にポンっと大きな手を置いて『今日もお疲れ様』と言った。
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『おかえりAちゃん、お風呂の用意出来てるわよ』
以前同様、今回の修行の間も
店に面する兼六坂を下り切った先に佇む松岡家の旅館兼邸宅に下宿させてもらっている。
今晩も、この宿の女将でもある昌宏さんのお母さん、慶子さんが笑顔で出迎えてくれた。
『このところ、ちゃんと眠れてないでしょう？』
『明日は店も休みだし、温かいお湯に浸かってゆっくり眠りなさい』
そう言って穏やかに微笑む慶子さん
昔から変わらないその温かな優しさに、特に今の私は頭が上がらない。
.
チャプンッ___＿＿
「…はぁ、…あったまる…」
安らぐ檜の香りを胸一杯に吸い込んでお湯に浸かると、一日の疲れが一気に解れていく。
ゆっくりと浸かったお湯から出て、身体を丁寧に洗いながら手元が辿り着いた首筋に触れると
不覚にも翔さんの唇の感触を思い出してしまう_______
“俺のそばに戻ってきてくれるって、信じてて良いんだよね？”
あの日の翌日
すぐに私は、松岡家に連絡を入れた。
少しの期間、もう一度お世話になりたい。
唐突なお願いにも関わらず二つ返事で引き受けてくれた昌宏さん
“A！しばらくだな、元気だったか？”
金沢駅まで迎えに来てくれたその懐かしい笑顔に、思わず安堵の溜息が出た。
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ゆり:)(プロフ) - このお話が大好きで再開してくださり、とても嬉しいです。取材を受けられるなんてすごいですね！お店に行ってみたいです！ (2021年10月5日 20時) (
レス) @page31 id: 4c9de357d4 (このIDを非表示/違反報告)
miihoo(プロフ) - こんばんは。お仕事の方もお疲れ様でした。更新もありがとうございます。私もざっくり飲食関係の仕事なので身近に感じて毎回楽しみにしています。そしてこのお話の翔ちゃんが大好きです。続きを楽しみにしてますね！ (2021年10月2日 19時) (レス) @page27 id: 4ea876c979 (このIDを非表示/違反報告)
nao(プロフ) - 続きが楽しみです！楽しみにしています！！ (2021年9月19日 18時) (レス) id: afb0ab4a24 (このIDを非表示/違反報告)
shi(プロフ) - こんばんは。元彼女め…とモヤモヤしますね( .. ) この後の展開がドキドキです！！更新楽しみに待っています！ (2021年5月29日 21時) (レス) id: 4f699932a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ティファニー | 作成日時：2021年5月23日 0時
