百六十八。殊勝【翔】 ページ18
『Aさん。店、閉めてるみたいだけどなんかあったの？』
ある朝、出社して開口一番にそう尋ねてきた二宮の報せで、Aが店を臨時休業としていることを初めて知った。
“あなたの隣に、胸を張って立てる私になりたいの”
少しでも気を抜けば頭に浮かぶAの顔。
その存在が当たり前になっていた日常で、彼女のことが気にならないはずは無くて。
ただ…その堅い決心を思うと、むやみに連絡することも躊躇われて、気が付けば六本木のバーで飲んだあの日から、2週間余りが経過していた。
『どっか具合でも悪いの？』
いつもならAのこととなれば何かと茶化してくる二宮も、こればかりは心配そうな表情を浮かべる。
臨時休業…
なぁA。今、どこにいるんだよ？
「二宮、今晩空いてる？ちょっと話したいことがある」
.
.
.
『なるほどね〜。そういうことか』
会社近くの丸の内の大衆居酒屋で、久しぶりに二宮と二人で酒を酌み交わし
事の経緯をだいたい説明し終えたところで二宮が腑に落ちた顔をしてそう言った。
『それにしても麻里奈ちゃん、大きく出たねぇ。不意打ちでキスなんて』
そう言って、新たに出した煙草に火をつける。
俺もひとつ…二宮に確認したいことがあった。
「俺と麻里奈のこと。Aにどこまで話した？」
俺がそう聞くと『さすが翔さん。お見通しでしたか』と、悪びれることも無く返してくる。
「お前以外に誰がいるんだよ」
全く…
『だって、フェアじゃないじゃん？』
二宮のその言葉に、項垂れた頭をもう一度上げる。
『突然現れた麻里奈ちゃんに一方的に色々言われて、Aさんの性格ならおそらく翔さんに話すことも出来なくて、一人で消化できないままなんて』
吸い込んだ煙草の煙を吐き出しながら、椅子の背もたれに寄りかかってそう言う二宮の言葉に、ごもっともだと思わざるを得ない。
それに、二宮ならきっと彼女を傷付けないよう上手く話したに違いないだろうし…
今考えれば、俺から聞かされるよりもよっぽど良かったのかもしれない。
『まぁでもAさんらしいね。自分の腕を磨くのが最善だと考えた、その選択がさ』
“胸を張れる私になれたら…もう一度、翔さんのそばに私を置いて欲しい”
『殊勝だね』
『自分の恋敵にもう一度向き合えなんて、簡単には言えないでしょうよ』
『裏を返せばそれほど翔さんが大切ってことかな』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 920人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆり:)(プロフ) - このお話が大好きで再開してくださり、とても嬉しいです。取材を受けられるなんてすごいですね！お店に行ってみたいです！ (2021年10月5日 20時) (
レス) @page31 id: 4c9de357d4 (このIDを非表示/違反報告)
miihoo(プロフ) - こんばんは。お仕事の方もお疲れ様でした。更新もありがとうございます。私もざっくり飲食関係の仕事なので身近に感じて毎回楽しみにしています。そしてこのお話の翔ちゃんが大好きです。続きを楽しみにしてますね！ (2021年10月2日 19時) (レス) @page27 id: 4ea876c979 (このIDを非表示/違反報告)
nao(プロフ) - 続きが楽しみです！楽しみにしています！！ (2021年9月19日 18時) (レス) id: afb0ab4a24 (このIDを非表示/違反報告)
shi(プロフ) - こんばんは。元彼女め…とモヤモヤしますね( .. ) この後の展開がドキドキです！！更新楽しみに待っています！ (2021年5月29日 21時) (レス) id: 4f699932a6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ティファニー | 作成日時：2021年5月23日 0時
