やさしい食卓三。【SS】 (ページ24)

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八十四。それだけの事ページ24

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やっぱり、涼子は知ってたんだな…

『Aさあ。お客の気持ちには敏感なのに、そういう所だけは本当に鈍感よね』

核心を突かれて、耳が痛い。

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『でも…今、Aが好きなのは、櫻井さんなんでしょう？』

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“俺、Aの事が好き過ぎて、ヤバイ”

“俺だけが、好きなんじゃないよね？”

不意にあの夜の彼の言葉が蘇って、

思わず私の帯締めに通っている、彼から貰った清水焼の帯留が付いた辺りに手を当てる。

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『その気持ちが確かなら、何も悩む必要無いんじゃないの？』

毅然とした表情のまま、涼子が話を続ける。

『何かを手に入れるには、他のものを手離す事が必要な時もある』

『全てを手に入れられる恋愛なんて、出来っこないもの』

『況してや人の感情なんて一番厄介なもので』

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“俺はもう、お前の幼馴染じゃ、いられねえよ”

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『今回の場合。櫻井さんを好きになったAにとって』

『その手離さなければいけないものが、大野さんだった』

『たった、それだけの事よ』

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彼女の言う事が、やけに的を得ている気がして

ウジウジ悩んでいた自分が、急に情けなくなる。

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『あ～美味しかった！やっぱりAのご飯は最高♪』

やっぱり

涼子は私の事、良く分かってるな…

今日は、そう痛感せざるを得なかった。

『明日の午前中、櫻井さんとウチの旦那、帰って来るじゃない？』

去り際の涼子が、振り向きざまにそう言う。

『会う約束してるの？』

そっか、帰って来るの、明日だ。

「あ、うん。詳しくは決めてないけど、その予定」

「涼子、今日はありがとね」

“ご主人によろしく”

私がそう言うと、彼女は笑顔で

“そっちも、カレによろしくね♪” と言って、帰って行った。

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明日は、日曜日。

5日ぶりに、翔さんに会える。