六十。もっと ページ30
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どうしよう
そう思いながら、彼に手渡された和箱に目を向ける
“帰ったら、開けてみて”
とりあえずこれ、開けてみなくちゃ
そうして、その和箱をよく見てみると
私でも知っている、京都の老舗呉服店の店名が記されているのが目に入る。
包装を解いて、そっと箱を開けてみると
繊細な手描きの模様が描かれた、美しい清水焼の帯留が二つ入っていた。
こんな上質なもの、本当に受け取って良いのかな…
“部屋、入ったら電話して？”
“ここで、待ってるから”
.
そうだ、彼に電話しないと
そう思い出し、慌てて受け取った名刺を手に取る
“◯◯商事 事業企画部 部長”
二宮さんと同じ歳だから、32歳だよね
まだ若いのに、こんなに大きな会社でこんな立派な役職を担ってるなんて…
少したじろぎつつも、彼の電話番号を自分のケータイにタップする
でも、なんて言えば良いんだろう
あ、まずは帯留のお礼を言わないと…
そんな風に悩んでいる内に呼び出し音が鳴り始めて、一気に鼓動が早くなる
.
『…もしもし』
「あっ、あの、Aです」
電話の彼の声を聞いて、何故かもう既に泣きそうな気持ちになる
『…ハハッ、そんなに緊張しないでよ。俺も緊張して来た』
私の緊張を彼に見透かされ、笑いながら和ませてくれる
「あの…帯留、拝見しました」
「とっても綺麗で、びっくりして…私、本当に受け取っても良いんでしょうか？」
私がそう言うと、彼は直ぐに
『もちろん。Aさんに似合いそうな物、一生懸命選んだから』
『センス自信無いからちょっと女将さんにも相談したけど』
なんて言って戯ける。
「…ありがとうございます。すごく嬉しいです。大切に使わせて頂きますね」
そうお礼を伝えると、彼は少し間を置いてから言葉を続けた。
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『…次の日曜日。空いてる？』
“俺と、デートしてもらえませんか？”
“全ては、それからだと思ってる”
この一歩を、私は踏み出しても良いんだろうか？
“俺はあの時、Aさんのこの手が創った料理に、心を救われた”
“君を育ててくれたお祖母さんに、俺も感謝しないとな”
彼のこと、もっと知りたい
もっと、近付いてみたいよ…
私の心が、そう叫んでる
.
「…はい、空いてます」
気が付いた時には、そう応えている自分がいた______
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作者名：ティファニー | 作成日時：2015年5月8日 16時
