やさしい食卓一。【SS】 (ページ29)

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二十九。困り顔ページ29

『あ～いつ食べても美味しいなぁ、Aのご飯』

『Aも仕事ばっかりしてないで、ちゃんとデートしなきゃダメよ、デート』

『そうそう。いくらAだって、もうアラサーなんだから』

『女の20代後半は一番良い時なんだからね！』

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今夜は、女子高時代の同級生たちが揃って店にやって来た。

「はいはい、ご忠告どうも」

『もう、何時もそうやってはぐらかして！』

良い加減に酔いの回った友人たちは、口を揃えて長年恋人のいない私に助言とやらをする。

これが何時ものパターンだ。

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『私たちはね～ただAに幸せになってもらいたいのよ。ここまでのAの努力を知ってるからこそ』

今年のお正月に入籍して、来月に結婚式を控える親友の涼子が言った。

「分かってる。ありがとね。それより、式の準備はもう済んだ？」

『ん～何とか最終段階に来た感じかな。Aもちゃんと式から来てね？』

心配性の涼子は、何度も念押しをする。

「大丈夫、ちゃんと行くから。その為に日曜日にしてくれたんでしょ？」

「涼子の晴れ舞台、楽しみにしてるよ」

私がそう言うと、彼女は満面の笑みを見せた。

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『じゃあみんな、今度集まるのは涼子の結婚式だね！みんなキレイにして来るのよ～！』

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友人たちが帰って行くのを見送って、店内に戻って時計に目をやると、時刻は閉店時間の約10分前を指していた。

今夜はもうこれで終わろうかな。

そう思って締め作業を始めようとしたら、入り口の扉が開く音がした。

『ごめん、もう今日は終わりだよね？』

その声に顔を上げると

空の店内を見て困り顔をした櫻井さんが立っていた。

『やっぱりまた出直すね』

そう言って扉を閉めようとした櫻井さんは

なんだかいつもと違って、余裕の無い表情をしていた気がした

「あの、櫻井さん」

そう呼び止めた私に、彼は再度視線を合わせる

「新鮮な蛤、まだ残ってるんです。お吸い物一杯だけでもお召し上がりになられませんか？」

私がそう言うと、彼はパッと明るい顔になった。

『でも、閉店の時間でしょ？本当に良いの？』

少し遠慮するような素振りを見せる。

「大丈夫ですよ。さ、どうぞお掛けになってください」

すると櫻井さんは『ありがとう』と言って、カウンターの中央席に腰掛けた。