二十七。一生を共にする事【翔】 ページ27
遥々ニューヨークまでやって来た松本は
香港への赴任が決まった事と、もう一つ
射抜くような目で俺を見据えて、ハッキリと言った。
“俺、麻里奈に香港へ付いて来てもらいたいと思ってる”
その言葉で
あれから6年経った今でも松本は
麻里奈のことをずっと変わらず想い続けていた、ということを思い知った気がして、言葉が出なかった。
“……そう”
“は？なんだよソレ？俺と麻里奈が一緒になっても良いわけ？”
“麻里奈にとって、それが一番良いのかもしれないから……『ふざけんなよ！！』”
その俺の言葉の途中、声を張り上げた松本が俺の胸ぐらを掴んで立ち上がった
“迎えに行くって言ったのは嘘だったのかよ！
好きだって言ってたのは嘘だったのかよ「嘘じゃねえよ！！」”
思わず声を張った俺を、松本は目をそらすことなく真っ直ぐに見つめ返す
“嘘じゃねえよ”
……そうだ。
“アイツのこと、すげー好きだった。
それは嘘じゃない。そして、好きな気持ちが無くなった訳じゃない”
“じゃあなんで！ 応えてやらねーんだよ……”
松本はそう言って、俺の胸ぐらから手を離した
“なあ、松本”
“は？”
“一生を共に過ごしたいって思える相手と出会えることって、すげー奇跡だと思わない？”
“…………”
“俺さ、まだ分かんねーんだ”
そう言うと、側にあったベンチに座り込んで組んでいた手に頭を乗せていた松本が、顔を上げて俺を見上げる
“アイツが、俺にとって一生を過ごす相手なのか
まだ、分かんねーんだよ……”
依然、変わらず俺を見つめる松本に、最後の言葉を告げる
“でもお前は、アイツが自分にとってその一生を過ごす相手だって、確信してんだろ？
お前と俺は、今、その気持ちが有るか無いかの違いなんだよ”
“…………”
“今の俺は、アイツと一生を共にするっていう選択は出来ない”
松本を真っ直ぐ見つめて、俺がそう断言すると
彼は俺の正面に向き直った。
“後から、やっぱり…ってのは、許さねーから”
.
.
.
『麻里奈ちゃん、月末には日本に帰国するみたいよ』
昼食を終えて、伝票を持って席を立ち上がる。
『結婚した時に会社は辞めてるから、復帰するのかは分かんないけど』
『まああれだけ優秀だったら直ぐにでも復帰可能だろうな』
“ご馳走様”
店主にそう告げて、俺たちは会社へ戻る道へと歩みを進めた。
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作者名：ティファニー | 作成日時：2015年4月27日 13時
