やさしい食卓一。【SS】 (ページ21)

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二十一。東京の人【翔】ページ21

「花、銀座まで仕入れに行ってるの？」

『はい、そうなんです。祖母の代から長年通っている生花店があって』

俺の問いにそう答えた彼女は “お待たせしました” と言って

仕入れたばかりで新鮮だと言うサザエの壺焼きと、茄子の田楽を差し出した。

「へー、そんなに長いこと？じゃあAさんはずっと東京の人？」

サザエを一つ口に運び、思わず “ウマっ！” と言った俺に、笑窪を浮かべて微笑んだ彼女が応えた。

『そうですね。生まれも育ちも東京の月島なんです。祖母が銀座で長年料理屋をやっていたので、生花店もそのよしみで』

.

あ、そういうことか。

「なるほどね。お祖母さん、今はお店やってないの？」

会話の流れで何気なくそう問い掛けると、彼女は少し間を空けて口を開いた。

『10年前に亡くなって、その時に店は閉めたんです』

そう言ったAさんは

“料理人として” の、その表情の奥に

どこか少し寂し気な表情を浮かべた気がした。

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『ちょうど昨日が十周忌で、母の日と重なったのもあって』

俺は、言葉を続ける彼女を見つめる

『それで、何時もより少し華やかなお花にしたくて』

そう言って

立派なカーネーションと薔薇の織り混ざったアレンジフラワーに視線を移したAさんは

これ以上ないって

そう思えるほどの優しい目をしていた。

.

.

少し沈黙のあった後、我に返ったように俺に顔を向けた彼女は

『やだ、すみません、私ったらこんな話…あ、おかわりお作りしますね。良い芋焼酎があるんです』

と言って、仕事に手を戻した。