【文スト】其の女、何故生きる① (ページ35)

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彼女には向かない職業ページ35

｢下顎骨剥離骨折、前頭骨・胸椎裂離、頚部靭帯損傷、上腕・大腿筋断裂、全身Ⅰ度熱傷…そして昏睡

派手に毀損(こわ)されたものだね、任務失敗の代償という訳だ」

「…申し訳ありません」

樋口は今、首領の話す言葉を悔しそうに聞いていた。

その場にはAも同席しており、樋口の表情から心配の色が滲み出ているのを見た。

「気を落とす事は無い、君達は佳く頑張ったよ」

樋口は俯いたまま何も声を発しなかった。否、発せなかった。

「…確かに、探偵社の襲撃に失敗し、人虎の捕獲を謬り、輸送船を沈めたけど、頑張ったから良いじゃないか
頑張りが大事、結果は二の次、そうだろう？」

『ま、まぁまぁ…首領…』

首領の恐ろしい圧力で部屋の空気がピンと張り詰めたのを感じたAは、一旦雰囲気を変えようと、出来る限りの笑みを浮かべながら声を発した。

『そ、そう云えば、作戦中に龍ちゃんが潰したカルマ・トランジットの残党が手勢を集めているそうです
恐らく、龍ちゃんへの復讐だと思います』

「！」

樋口の瞳が大きく揺らめいた。

その近くではエリスが芥川の首が刎ねられた絵を描いていた。

「良いかね？樋口君
マフィアの本質は暴力を“貨幣”とした“経済行為体”だ、何を沈めても誰を殺してもいい
だが、暴力を返されることは“支出”であり、“負債”だよ」

「芥川先輩は是迄の任務で多大な成果を…」

「確かに芥川君は優秀だ、彼の暴力性は組織でも抜きん出ている

では、君は…？
樋口君、君は自分がこの仕事に向いていると思った事は有るかね？」

首領が一通り話し終えたところで樋口は一礼をして部屋から出ていった。

『……首領、幾ら何でもあんな事を云っても良かったのですか…？』

「…いいんだよ、彼女が何故この仕事を今迄辞めなかったのか、これからどうしていくべきなのか、ポートマフィアがどういう組織なのか、自身で考えるにはとても善い機会だとは思わないかい？」

首領はAの顔を見ながらそう言った。

『まぁ…確かにそう…ですね
でも、一応様子を見てきた方がいいですかね…』

「私は何方でも良いけど、Aちゃんが気になるのなら見に行って来なさい」

そう言われたAは樋口の後を追った。