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第二章『蝶と椿』【3】 ページ7

一方、真昼もまた、幼い頃、母親を失った時。

 学校で、変わらず優しく接してくれて、遊びに誘ってくれた友人たちの言葉を、何故か受け入れることが出来ず。

 家に帰ると、暗い部屋で一人蹲っていた。

 仕事から帰宅した徹は、そんな真昼の姿を見て、優しく抱きかかえると、静かにこう言ったのだ。

『真昼・・・今のお前はどんな気持ちだ。お前がその気持ちをわかっていないと、誰が何を言ってくれてもお前に届かない。名前をつけてみろ。それは感情と向き合うひとつの手段なんだ。そうすればこれから先・・・お前のところにやってくるいろんな感情との向き合い方もきっとわかる。まずお前が向き合えなかったら、きっと誰も向き合えない』



 椿のこの瞳は、幼い頃―――――母親を失った時の自分と同じだ。

 自分は、叔父が掛けてくれたあの言葉のおかげで、あの時、抱いていた感情と向き合うことが出きた。だったら、いま、自分が椿に掛けるべき言葉は―――――

「・・・何も面白くないのはお前が、お前の気持ちと向き合えてないからじゃないのか・・・」

 過去の記憶から思い出された想いに、真昼は目に涙を浮かべながら、締め上げられているせいで、徐々に呼吸がしづらくなってきた為に、浅く息を吐き出しながら、椿に言う。

「は?」

 椿が目を瞬かせ、真昼の顔を見る。

「お前が誰も自分を知らないって感じるのは、お前がひとりで閉じこもってるからじゃないのかよ」

 そんな椿に対して、さらに真昼が言葉を続けると、ふいに椿の手が緩み、真昼の身体はドサと地面に落下したのだ。

「真昼君!!」

 いまだうつ伏せになったまま動かない、スリーピーアッシュの傍らに居た瑠璃が、すぐ傍に落ちてきた真昼の名を呼ぶ。

 一方、椿は、表情が分からないくらい、黒い影を纏わりつかせながら、

「あはっあはっはははは。うん、そうかもね! だから戦争をしようって言ってるんだ! あっははははははっははは。コミュニケーションのひとつ! アクティブでしょ!?」

「ちがうだろっ。何で攻撃するんだよ!」

 あくまでも、こちらの言葉の真意を理解しようとしない椿に、真昼は苦々しい表情を浮かべると、宣言する。

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作者名:朱臣繭子 | 作成日時:2017年5月22日 18時

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