人生には知らなくていいこともある ページ21
よくよく考えれば、神楽ちゃんに悪影響を与えない部屋なんてある訳がなく。
奥の手であった、生前の両親がお気に入りなのだと豪語するここの店舗で物置部屋として使っていた、フロント奥にある執務室。これしか選択肢がなかった。
あの部屋、そもそも扉が開くのか心配だ。仕方なく建て付けの悪い扉を開けばばさばさと扉の前に積み上げられていた冊子が落ちる。
落ちた冊子を手に取り、その辺に置き直そうとしたのだけれど。見覚えのある人が父とツーショットで写っている写真が目に入った。
「これって…」
まさかと思い、父の日記を漁る。煤けた日記を捲れば、写真が剥がれた後のあるページにたどり着いた。
『__お登勢のところの何でも屋と飲んだ。
面白ぇやつだった。金がねぇって言うもんで、ウチの用心棒になるって約束つけて奢ってやった。近いうちにまた__』
もしかして…、いやもしかしなくても、有力なバックって、かぶき町の四天王って、銀さん、ってこと…?
銀さんがウチの用心棒なら、あの日お店の前で倒れてたのも、私を万事屋で面倒を見ると宣言して引き取ったことも。
全て偶然なんかじゃなくて、銀さんの意思で決めたことでもなくて、父との約束があったから?
江戸の街は義理人情に厚いと聞いてはいたけれど。いざそれを実感すれば優しさ故に悲しい、というか。今まで一緒に過ごした時間も、全て約束の上に成り立っていたんだと思うと、悲しくなる。
優しくされすぎたせいか、その優しさも嘘なのかもうわからないまま。視界が揺らぐ中、神楽ちゃんを部屋へと案内する。
「まともな部屋がここしかなくて…、ちょっとほこりっぽいけど我慢してね」
「ほ、ほこりっぽいのには慣れてるから大丈夫アル!A姐、お仕事頑張ってネ」
神楽ちゃんが動揺していたのは私が涙を見せていたからか、と部屋を出てからようやくわかった。
涙は血をこしたものってアレ本当?→←世の中は理不尽ばかりだけど割と楽しい
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作者名:ぴ! | 作者ホームページ:https://twitter.com/pipipi__dream
作成日時:2018年9月4日 0時