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ムーンサイド2 ページ17

「A」

名を呼ぶ。
なにが不安なのだろう、だなんて。考えなくてもわかる。きっと、新一が――唯一の居場所がなくなるのが、恐ろしくてたまらないのだ。

「A。俺は帰ってくるよ。お前のところに。なあ、だから待っててくれ」

新一の言葉に、Aは肩を震わせた。
信じている。けれど、やはりどこか不安で、信じているのに、信じきれない。
恐ろしくて、たまらない。

「……現場には行かないから、せめて、近くにいたい」
「A……」
「小さくなった新一、連れて帰るくらいは、したい」
「でも」
「だめ?」

痛いくらいに手を握りしめられる。
だめだ。行かせない。行かせられない。
理由、理由は……。

「……危ないだろ」

情けのない言い訳だと、自分でも思う。それでも新一にとって、Aはかけがえのない存在だ。
この世界でたった一人、自分と同じ不安定な人間。

それはきっとAも同じだろう。
本来ならば、新一と出会うことさえありえない出来事で。
それだというのに、そんなありえない事態の中で、存在してはいけないはずの世界で生きなければならない。

Aの不安はきっと新一より大きなものだろう。
存在してはいけないはずの自分が、唯一、同じような事態に陥っている新一を失うのは、ある一種のアイデンティティの崩壊にも等しい。

「分かった。ただし、途中までは俺と一緒に行動すること。俺の指示には絶対に従うこと。……いいな?」
「うん。ありがとう」

幸せそうに笑うアンナの額にそっと口付けた。

そうして幕は開いた1→←ムーンサイド1



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作者名:コトハ | 作者ホームページ:   
作成日時:2016年10月26日 22時

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