ムーンサイド1 ページ16
「トロピカルランドに行くの、変わらないみたいだね」
「……そうだな」
寝室のベッドの中、コナンとアンナは内緒話をする子供のように小さな声で、天井を見上げながらぼやいた。
コナンとアンナは普段家から出ない。
出るとするなら、隣に住むキテレツな発明品ばかり生み出す阿笠博士の家に遊びに行くか、近くのスーパーへ買い物に出るくらいである。
その買い物にいたっても、ちょっとしたものなら新一が学校帰りに買ってきたりするなどしてよけいに外出の機会をなくしてしまっている。
だからか、夕飯の時には新一の声が途絶えない。その日にあったことを――とりわけ楽しかったことばかりを――いろいろと話し、食卓を賑やかにしてくれる。
今日。その話の中で新一は、幼馴染である蘭とトロピカルランドへ行くと約束したと言った。
それを聞いたとき、アンナは顔を少し曇らせたが、新一の目は運良くとでもいうべきか。アンナを映しておらず、いぶかしむような視線を送ることはなかった。
「……子供の頃のお洋服って物置き部屋だっけ?」
「ん?ああ、そうだよ」
「一度洗濯に出しておく?もうずっと着てないんだし」
「それもそうだな。頼むよ」
分かった。そう返してアンナは隣に横たわるコナンの手を握った。
「……帰ってくるよね?」
不安なのだ。本来ならあの薬は服用した者の命を奪う薬であり、体を小さくするものではない。
もし、コナンがあの薬を飲んで、本当に死んでしまったら。そう考えると不安で胸が痛い。
「大丈夫。絶対帰ってくる。……お前が言ったんだろ。なんとかなる。絶対大丈夫だ。って」
「……そうだったね」
ぎゅうとアンナの手を握り返し、抱き寄せる。
「ねえ、コナン……新一」
「……ん、どうした?A」
「私、新一しかいないんだ」
「A?」
「新一しか、いないんだよ」
部屋が暗い。Aの顔が見えない。
わかるのは、握った手が震えていること。声が震えていること。不安でたまらないこと。
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作者名:コトハ | 作者ホームページ:
作成日時:2016年10月26日 22時