【歌い手恋文企画】机に描いたloveletter 1st (ページ17)

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【センラ】逆さまの世界4 /　うさ美* ページ17

ベッドの上でしか表情を変えない彼女が涙を流した。
いつも無表情な彼女が、俺を見つめたままポロポロと涙を流した。
あぁ、なんて俺は最低な男だ。なんて情けない男だ。
そんなに傷つけると思わなかったが、愛されているのだと少しは自覚はしていた。

「俺を恨んでくれ」

俺は泣き止まない彼女の肌に触れ、眉を顰めながら微笑んだ。
彼女は生徒なのだ。べつに本気だったわけではないと自分に嘘を吐く度に泣きそうになる。

「いいよ。別れてあげる……許してあげる」

「……Aは強いんだね。俺を許せるんだ」

「だって……嘘ってバレバレだもん」

すすり泣きながらセーターの袖で必死に涙を拭う彼女の顔は耳まで真っ赤になっている。
俺はただ謝ることしか出来ずに「ごめん。嘘が下手で」と彼女の頬に伝う涙を拭った。

「別れてあげるけど……好きでいるって言ったらどうする?」

「……俺には重いかな。背負いきれへんよ」

「遊びだったら良かった?」

「ううん。A相手に遊びは無理や」

俺が笑うと、彼女も涙を流しながら笑ってくれた。
俺のどんな言葉も全部受け止めて、全部背負ってくれる。
本当に彼女には敵わない。敵わないから、閑念して吐いてしまおう。

「俺が高校生の時、窓際でいつも空を眺めている子がいた」

「……好きだった?」

「まあね」

「今でも?」

「どうかな……もう枷になっちゃったから」

「……」

「その子、いじめられててん。俺気付かんと毎日話しかけてな、この学校の屋上から飛び降りる前に言われたよ……『好きになれなくてごめんね』って」

「私……その子に似てた?」

「……そっくり」

「……」

「これでも好きでいられる?これでも許せる?」

その制服を見る度に思い出して、その肌に触れる度にあの子を思い出す。
だから俺は君をあの子の代わりにして毎日君を汚すのだろう。
あの子と君を重ねて毎日許しを請うのだろう。
あの子が最後にみた逆さまの教室で、ひっくり返ったままの世界を照らす君に。
俺が溢れそうになる涙を堪えると、君は儚く微笑みながらまた涙を流した。

「先生ってやっぱりバカだね。自らの枷とするために教師になったのに、私の為に苦しむんだね」

「お願い。俺のこと大嫌いだって言って」

「……大嫌いだよ。きっとこれからもずっと」

この日、俺たちは最後のキスをした。
最後のキスはしょっぱかった。
そしてその翌日、俺は一人母校を後にした。