【文スト】私と貴方の落書き帳【短編集】 (ページ21)

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幼女とおっさんのバレンタインページ21

いろんなとこを回って、お菓子を渡していく。

黒蜥蜴の人達は喜んで食べてくれた。ヒグチさんはどういう訳かハイテンションだった。
アクタガワくんにあげた分は、羅生門が一口で食べちゃった。
「樋口も菓子を渡してきたが、一体何事だ？」って聞かれた。アクタガワくん、バレンタインデーのこと知らないのかな……

「あとはリンタロウとカジイの分だけね」

「うん……」

とことこ歩いてボスの部屋。

「エリスちゃん！一体何処に行ってたんだい？」

「バレンタインだから、チョコ配りに行ってたの。はいこれ。リンタロウの分」

「私にもくれるんだね！嗚呼、うちのエリスちゃんはなんて良い子なんだ！」

ボスはエリスちゃんに抱きついた。
いつも通り過ぎる反応……

「ボス……私からも……」

「ありがとう、メアリーちゃん！」

私も何故か抱きつかれた。
時々、この組織が一体何なのかよく判らなくなる所以は此れか？

「あの……モトジロウにもチョコ渡さないと……」

「メアリーちゃんは優しいね。多分、研究室の方に居ると思うよ」

「判った……」

ボスの部屋を後にする。
エリスちゃんが、コレ渡しといて、とお菓子を託してきた。

「……モトジロウ、喜んでくれるかな……」

皆にあげたのより少し大きい包みを手に、モトジロウの部屋に行く。
ドアの前で深呼吸。

「……うん」

覚悟はできた。
扉を開ける。

「……あれ、メアリー。どこ行ってたんだい？」

「……えと……これ……あげる……」

私より30㎝以上も背の高い彼に、特製のお菓子を渡す。

「どしたの、これ？」

「今日は……バレンタイン……だから……」

へぇ、と云いながら、包みを手に取りまじまじと眺めるモトジロウ。

「バレンタインのチョコか……ありがとう……」

何だか様子が変だ。
なんというか、『怪盗が長年恋い焦がれついに盗むことに成功した美術品を眺めている』みたいな顔だ。我ながら妙な喩え。

「貰ってみると、嬉しいもんなんだねぇ……」

「貰ったこと……無いの……？」

「……あるよ」

「いつ……？」

「今日」

「……」

「……また、ホワイトデーにお返ししないとね」

そう云って彼は、部屋の奥へ行ってしまった。
バレンタインデー……成功……かな？