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夜が明け、旅人は御社を発った。数百年振りに人間と接したことで、地主神は随分と久々に笑顔を浮かべていた。

しかし、村の方に不吉な気配を感じた。嫌な予感がして、姿を隠すことも忘れ、慌てて御社を飛び出した。

笑顔で御社を発っていった旅人は、村人が焚いた火の中で物言わぬ骸となっていた。村人が「荒御魂に触れた者は生かしておくと危険だ」と話しているのを木陰から聞いた。

地主神の中で、何かが木っ端微塵に壊れる音がした気がした。同時に、中に響く何かの声が一際強くなった。
『怖いのならば眠れば良い。眠りの中では誰も汝を咎めやしない』
地主神は声に従った。もうこれ以上人間を愛せそうになかった。怖がられるのも、親しんだ者らが死ぬのも嫌だった。深い意識の底に沈む時、己の内にいた何かが浮き上がっていくのを感じたが、それだけだった。

地主神が奥底で眠りに就いた時、長らく内に閉じ込められていた第二の人格──焚忌が初めて表層に浮き上がった。燃やされる旅人の骸、恐ろしい目つきでそれを見遣る村人。それらを眺めて、焚忌は呵々と笑った。その声は村人にも届き、恐怖を多大に込めた目で平伏した。その時に見た地面が、彼らの最期に見た景色となった。

大地は隆起し、或いは陥没し、近隣の川が流れ込み、鋭い大岩が降り注ぎ、村全体を滅茶苦茶にした。村人が一人残らず無惨に死に絶えた村の跡地で、焚忌はカラカラと笑い続けた。その頬には黒い涙が伝い、奇妙な形の紋となってその肌に残った。

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作者名:アカツキ | 作成日時:2021年2月23日 22時

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