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しかし、災いが起こる度に贄として捧げられるのもまた巫女の一族だった。飢饉、旱魃、疫病……十数年、或いは数十年に一度のペースで迫り来るそれに、地主神は疲弊しながらも必死に抵抗した。それでも足りず、いつも必要も無い贄が差し出された。
地主神の姿は成長を止めていた。正確には、成長する分の力まで村を守る為に利用していた為、成長するだけの余力が無かった、というのが正しい。ずっと華奢な幼子の容姿の儘、時には力の使い過ぎで更に幼くなりながら、それでも地主神は人々を守り続けた。
ある日、疫病を退けた後で力が乏しい状態の地主神が村へ降りると、盗賊と思しき男の集団が村の娘を攫おうとしていた。抵抗したらしき村人らの死体が脇に転がっていた。自分もああなることを恐れた村人は、恐怖を色濃く滲ませた目で娘の方を見ていた。
気が付けば、目の前には盗賊の死体らしきものが転がっていた。何かで滅多刺しにされたような状態だった。きっと己がしたのだろうと漠然と感じた。
「荒御魂だ」──誰かがそう呟くのが聞こえた。声は伝播し、村人達は地主神を恐ろしいものを見る目で見つめた。その目が恐ろしくて、地主神は逃げるように御社へと帰った。
それ以降、地主神の姿に変化が現れ始めた。最初に、黒い角が生え始めた。初めには無かったものだ。次に、元から生えていた真白い翼が黒く滲み始めた。この辺りで、村人らが地主神を荒御魂だと思い込んだ所為だと気付いた。
村人らを説得しようと思ったこともあった。けれど、彼らは怯えるばかりで話にならなかった。彼らをああまで怯えさせる自分は確かに荒御魂なのかもしれない──そう考えた地主神は、村に降りることを辞め、村人との関わりを絶った。
数百年の年月の中で、地主神の姿は大きく変わり果てた。その所為で余計に人前に姿を現せなくなった。それと同時に、精神も摩耗していった。自分の中に何か別のものがいるように感じ始めた地主神は、己のことまで恐れるようになった。
ある時、一人の旅人が村へとやってきた。その時期は飢饉が続き、旅人は村でもてなされた後、神域の山に迷い込んだ。御社を見つけた旅人は、その中にいた地主神に恐れることなく声を掛けた。地主神は驚いた。自分は人間に恐れられるものだとばかり思っていたからである。
地主神は旅人を御社に泊め、代わりに外の話を強請った。旅人は日本各地を巡って見聞きしたものを地主神に語って聞かせた。
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作者名:アカツキ | 作成日時:2021年2月23日 22時