でっかい愛

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室長の部屋を出ると、
前までと空気が違う気がした。


みんなが俺を好奇の目で見てる気がする。


自意識過剰やって思おうとしても無理で。


図面を引く手のひらが、汗ばんでる。


そのくせ、冷房が肌寒くて震える。


ヒートの時と同じ感覚に、怖くなる。



パソコンに隣の席の女の子から、室内メールが届いてる。


開いたら、

７月の最初の土曜に、


設計室と営業一課合同で、
海辺のリゾートホテル宿泊の案内やった。


社内旅行。


ヒートに当たらずに、なんとか毎年過ぎてきた。


今年は・・・多分、ビンゴや。


それも、
重岡に恋してるって自覚してからは、
いつ来るのかも分からへん。



「神山も当然、社内旅行、出席だよな？」


とんっと、肩を叩かれて、息が止まりそうになる。


振り返ると、大林さんが俺のパソコンを覗き込んでた。



「えっと・・・今年はまだ予定が分からなくて」


「なんだよ。
最近、都合悪いばっかじゃん」


「実家でちょっと色々あって・・・」


もし今、ここでヒートが起こったら。


ぐるぐる視界が回る。


怖い、怖くてたまらん。


助けて。重岡。


重岡、俺のこと、見つけてくれたんやろ？


なら、ここから救い出してよ。


巨大な渦に飲み込まれて、
一人きりで、押し潰されてまう・・・


心で叫んでたら。


「神ちゃん！そろそろ中間コーポレーション行くで！」


ほんまに重岡が迎えに来てくれた。


「あっ、うん、今出るから！」


バタバタと変更案の資料を準備して、
大林先輩の脇をすり抜けた。


大林先輩独特の、苦手な香りに、少し吐き気がする。


なんの匂いなんか分からへんけど。


匂いで人を識別する、動物みたいな本能的な自分に嫌気がさす。


廊下の重岡のところに駆け寄る。


早く上書きして欲しい。


「神ちゃん、顔色悪い？」


「だいじょぶやで！
ちょっと、朝からパンケーキ食べ過ぎてん」


「もお、甘いもんはほどほどにやで」


「はいはい」


「あー、適当に聞き流したな！」


「ごめんごめん。気をつけるって」


「絶対思ってないやつやん！」


わちゃわちゃしながら、廊下を歩く。


エレベーターは珍しく二人きり。

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