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そこらの畑には土が眼を開いたようにところどころぽつりぽつりと麦の花が白く見えている。
花の白さに馴染む彼は非番だというのに軍服を着込んで、地面に刀を立ててそこで待っていた。
「ひとらんらん」
私の声に彼は軍帽を被りなおす。
「やっと来たんだね」
「誰かさんが周りくどい真似をしてきたから。遠回りしちゃったの」
「簡単だったでしょ?」
「難しかったわ、馬鹿」
軽口を叩けば彼は安心したかのように結んだままの唇にかすかな笑いを浮かべる。
「こんな大々的に、周りの人まで巻き込んでどういうつもりなの?」
「…聞いてほしいことがあったんだ。聞いてくれる?」
私はこくりと頷く。
「俺のこの身は国のものだ。」
「私の身も、国に捧げているよ」
「ったく、人がかっこつけようとしているんだから少しは静かにしててよね」
珍しく穏やかに笑うひとらんだが、彼の瞳にひどく熱が篭っていてそれを見た私は軽口を叩けなくなった。
「俺は、器用ではないから…ただ一人のために生涯をかけて誓うことなんてできない。俺の一番は常にこの国だ。」
彼の気持ちは私の気持ちそのものだ。軍人である私にも痛いほどにそれが理解できる。
「だけど伝えずに死にゆくなんて不器用なこと出来なかった。Aを想うこの気持ちは一生大事にしていきたいんだ。
君のために俺の命を捧げることはできないけど、君を想って戦うことは出来る。
ずっと言えなかったんだけどさ、
俺と、結婚してください」
私はなるべく畑をダメにしないように彼の近くに向かう。小さな麦の花が私の長い髪の毛に引っ付こうと今は関係ない。
「ひとらんらん」
ひとらんらんの瞳が私を捉える。
「私の一番も、この国だけど…それでもいい?
私もあなたに命を捧げることはできないけれど、
あなたの隣で、あなたを想って刀を振るうことはできるから」
私は三枚の和紙を彼に見せる。
やけに手触りの悪いそれ。
「周りくどいのは嫌いなの」
「…Aは気づかないと思ってたから」
「しかも告白だってまだなのに急にプロポーズって…私が馬鹿だからっていくらなんでもだからね!」
私が伝えたいことは伝わったらしい。彼は私の手を握って…静かにもう一度愛の言葉を告げる。
秋風に乗って聞こえたその言葉に私は「私もあなたと見る月が一番綺麗です」と告げた。
和紙にはもう一つ暗号が隠されていた。
凹凸となっていた点と線。それを繋いでみれば
「つきがきれいですね」と記されていた。
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鯉口(プロフ) - 赤羽 紫音さん» コメントありがとうございます! (2020年4月4日 3時) (レス) id: ad6d0057cd (このIDを非表示/違反報告)
赤羽 紫音 - 凄い! (2020年4月4日 2時) (レス) id: 527cd6ca75 (このIDを非表示/違反報告)
鯉口(プロフ) - ノアさん» 主催者の鯉口です。コメントありがとうございます(*^^*)まだまだ続きますので更新をお待ちください! (2020年2月29日 1時) (レス) id: ad6d0057cd (このIDを非表示/違反報告)
ノア - めっちゃ好きです! 文才分けて欲しいぃ((( 毎日、楽しみにさせてもらってます! 更新頑張って下さい! (2020年2月25日 22時) (レス) id: 47bc0266fa (このIDを非表示/違反報告)
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