赤目駅できみを待つ。 ページ3
喪服を着た私はあの赤目駅へ向かっていた。やはりあの留守番を聞いたって実家に帰る気にはなれなくて、次の連絡は父親が亡くなったという知らせであった。
始発に乗っても昼過ぎに辿り着く辺鄙な場所。父親を懐かしさなんて感じる間も無く、ただあの声の人物の顔を思い出そうとしていた。そんな私は薄情なのだろうか。
覇気のない車掌のアナウンスが赤目駅に辿り着くことを知らせる。駅を降りれば、屋根すらない開放的でいて古びたホームがそこにある。赤目駅と書かれた文字は擦れてしまっていて、この駅がどれほど古いものか一目見れば分かった。誰もいない無人駅。周りを見渡すが、やはり誰もいない。
「……赤目駅で待ってるんじゃなかったの、」
一人自然と口から落ちた言葉にハッとする。あの声はどこで待つ、なんて言ってはいなかったのに完全な思い込みだ。久しぶりに履いた黒のパンプスはやたらと痛くて、きっと帰る頃には靴ずれになっているんだろうなと考えながら私は帰路につく。
.
通夜には間に合わず私が顔を出せたのは葬式だけだ。閉鎖的な村だからか、終始静かに…密かに行われた。村に住まう人々はみんな顔見知りで、私は色のない瞳を浮かべて彼らに挨拶をする。彼らもまた久しぶりに見た私に気を使い、かける言葉は最小限だ。式が終わり、出棺についていく。火葬場は母親と私の二人だけ。会話なんてなくていいのに、母親が口を開く。
「Aに話したいことがあって」
「…なに」
遺骨を骨壺に詰め終わり、それを大事に抱えた母親が目を伏せたまま笑う。
「父さんね、あんたのこと大好きだったのよ」
「…は、」
「母さんも父さんも一度だってAのことを忘れたことはないわ。いつだってあんたが好きなことを出来る様に見守ってきたの。村を守るために、一番大切なAに声をかけることを疎かになっていて…あんたが出て行った時二人で後悔してたの…。父さんは最期まで、あんたの心配をしてた。傷つけてしまったって、最期まで臆病なままで、会うことは叶わなかったけれど…。これは本当なの、」
笑っていたはずの母親から涙が零れ落ちる。知らない、知りたくもなかった話に、いつのまにか私の頬にも涙が伝っていた。
「…、知らないよ、そんなの」
やっと絞り出せた声は、かすれてしまっていた。
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ここ - htrn難民です…いやぁ…最近涙もろくなったかもしれないです… (2022年5月23日 0時) (
レス) @page17 id: 89e416f6d5 (このIDを非表示/違反報告)
鯉口(プロフ) - 彗月さん» コメントありがとうございます！喜んでいただけたら嬉しいです！！ (2021年1月31日 16時) (レス) id: ad6d0057cd (このIDを非表示/違反報告)
彗月 - niさん難民です…。こんな企画があったなんて！重宝させていただきます。 (2021年1月31日 11時) (レス) id: dea094a662 (このIDを非表示/違反報告)
鯉口(プロフ) - あまいひとさん» コメントありがとうございます！そう言って頂けてこちらも嬉しいです！ (2020年9月5日 18時) (レス) id: ad6d0057cd (このIDを非表示/違反報告)
あまいひと - rnrn難民です、、。ヘッダーからも消えて死にそうだったので嬉しいです、、。ありがとうございます(昇天) (2020年9月5日 12時) (レス) id: e438e75949 (このIDを非表示/違反報告)
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