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チーノはほんの僅かだけ、息を止めた。
ゾムの言葉の意味が分からないほど子どもではない。
けれど、複雑な気持ちだった。
「お前の前任、知っとるか？」
「……月に攫われた、としか」
チーノの前任。
つまり、彼が幹部になることができた空席。
ゾムはよく覚えていた。
「あいつは強い奴やった。
最強って言われとるトントンよりも、ずっとずっと強かった。
憧れもあったし、羨ましさもあって、絶対に大丈夫っていう、信用があった」
「トントンさんよりも、強かったんですか……？」
「そや。強くて、頼もしくて、一番頼りにされてた」
ゾムは中庭の植木の側に座り込んだ。
俯いたままだったが、先ほどよりも幾分か元気になったようだった。
「チーノが来る前やから……大体50年くらい前やな。
凄かったで。
一瞬で月の人を霧散させて、仲間を誰一人も傷つけなかった」
懐かしむように話すゾムを横に、チーノは視線を下に向ける。
前任は素晴らしかった、という言葉が少し重い。
「そんな強い奴が、いなくなったんや」
当時は騒然としていて、彼と最も仲が良かった軍医は悲しみに暮れて自己破壊に陥った。
あまりの悲しみに、心が砕けたかのように、自分の身体の一部にヒビを入れてしまったのだ。
「あんなに強かった奴が、連れて行かれた。絶対なんてないんや」
「……ゾムさん」
「チーノ、ごめんな。
俺はシッマ同様に、お前を兵士にしたくない」
――親しい友を無くす気持ちは、もう味わいたくないんや
「ほんまに、ごめんな」
部下を失うことだけでも辛いのに、もう、対等の立場の友人を失いたくない。
ゾムは体育座りをしながら、チーノに謝っていた。
それは、チーノの気持ちを最も理解している者としての、許しを請うような謝罪だった。
泣いているような、震えている声で、彼は何度もごめん、と言う。
チーノは何も言わずに、彼の隣に座った。
(ゾムさん、それは裏切りではないよ。
あなたが俺を理解してくれていることは、ちゃんと知っているから)
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鯉口(プロフ) - あきらさん» コメントありがとうございます！最初の注意事項の項目を読んで察していただけると幸いです (2022年7月20日 0時) (
レス) @page1 id: ad6d0057cd (このIDを非表示/違反報告)
あきら - 宝石の国、、、、？あっいつも見てます頑張ってください (2022年7月19日 18時) (レス) id: 59a8197af5 (このIDを非表示/違反報告)
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