（青）会いたい ページ10
〇 一般人
〜〜〜
真夜中。着信を告げる機械音に、半分寝かけていた頭が無理やり覚醒させられて、若干の憤りを感じつつ画面を見ると、予想外の名前が表示されていた。
「…もしもし、どした」
『…』
「…A？」
付き合ってから結構な月日を共に過ごしてきたが、これまで電話なんて滅多にかけてこなかった彼女が、こんな時間に前置きも無くかけてくるなんて。
なかなか話し出そうとしない彼女に、何か良くないことでもあったのかと、つい身構えてしまう。
『…会いたい』
ようやくぽつりと呟かれた言葉は、なんのことはない、いつも強がりな彼女が、控えめでぎこちないながらもようやく甘えてきてくれただけ。
「…待って、もしかして外？」
『…ごめん』
「マジか、…今どこ？」
電話の向こうがやけに騒がしいと思ったら、まさか、こんな遅くにひとりで外にいるなんて。
ひとまず彼女には近くのコンビニで待つように言い、車に乗り込む。目的地まではそう遠くないし、今日はたまたま酒を飲んでいなかったから良かった。
法定速度ギリギリ。最速で到着するとすぐに、店の前で蹲る彼女が目に入り、慌てて車から降りる。
「…お前、中入ってろよ」
『だって財布持ってない…』
「は」
『…』
「…こんな夜中にこんな薄着で、
財布も無くて、何かあったらどうすんだよ」
『…ごめんね』
「怒ってない、心配してんの」
『ん、』
いつも溌剌としている彼女が、あまりにもわかりやすく沈んでいるから、調子が狂う。
それでも、変に気を遣われるのはきっと嫌がるから、何でもないように声をかけ、彼女を連れて車へ戻る。
「俺ん家でいい？」
『…う〜ん』
「このまま適当に走らせてもいいけど」
『…じゃあ、ちょっとだけ走って、樹の家いく』
「ん、おっけ」
望み通り、いつもと違う遠回りする道を通って、さっきの倍以上の時間をかけて家まで走る。
その間ずっと黙ったままだった彼女は、家に着いてからようやく、俺の目を見て、口を開いた。
『…迷惑かけてごめん』
「は、なんで」
『だって、』
「別に迷惑とか思ってない」
『…うん』
俯く彼女の顔も見ないまま、そっと抱き寄せる。
ゆっくりと背中を撫でていれば、徐々に震え出す肩。本当に泣くのが下手くそで困ったものだけど、俺の目の届くところで泣いてくれるなら、それはそれで。
ひとりで隠れて泣かれるより、ずっといい。
〜〜〜
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作者名：春野菜
| 作成日時：2020年9月13日 18時
