（桃）一目惚れ ページ11
〇 高校生
〜〜〜
『失礼します…』
今日は朝からずっと、生理痛が酷くて。
養護教諭が男の人だから、出来ればこういうことでお世話にはなりたくなかったけれど、薬を飲んでも改善しなかったから、観念して保健室の扉を開く、と。
「…、どうしたの？」
キャスター付きの椅子にはいつもいるはずの先生じゃなくて、制服の、色白の綺麗な人が座っていて。
大勢に紛れても目立ちそうな見た目だけど、少しも見覚えが無かったから、先輩、かもしれない。
『…あの、先生は』
「今、いないんだよね」
『そうですか、…』
「…大丈夫？」
『え、』
「顔色悪いよ」
とんとん、と自らの隣の椅子を叩く彼。
立ちっぱなしはしんどいし、断る理由が見つからなかったから、とりあえずそのまま素直に従っておく。
『…お気遣いありがとうございます』
「どうして敬語なの？」
『…、え』
「俺、１年」
『うそ、同級生？』
「あ、俺のこと知らなかった？」
『知らない…』
俺、結構有名人だと思ってたんだけど、って。
確かにこの見た目なら噂になってもおかしくないな、なんて、結構なナルシストと捉えられてもおかしくない台詞も何故か納得出来てしまう。
「…で、大丈夫なの？」
彼の顔を見たままぼんやりしてしまっていると、すっと伸びてきた手が、私の額に触れた。
『…っえ』
「体温計見つかんないんだけど、知らない？」
『うん、知らない…』
「だよね、…熱は無いっぽい？
俺、体温低いから、わかんなかった」
……いや、こんなの、心臓に悪い。
そもそも生理痛が原因でここにいる訳だから、きっと普通に熱は無いし、なんならあなたのせいで上がりそうです、なんてことは流石に言えなかったけど。
「ベッド空いてるし、使ったら？」
『え、でも』
「先生には俺が言っとくから、安心して」
『……じゃあ、』
それから、言われるがまま、いちばん窓寄りのベッドに寝転がった私に、優しく微笑んでくれて。
「…あれ、大我、いつ来た？」
「やっほ、こーち、ついさっきだよ」
「ん？」
「�眞論萓検△弔い気辰�でーす」
先生と生徒とは思えない気の抜けた会話を聞きながら、頭の中でこっそり、彼の名前を反芻する。
……響き出した心臓の音は、まだ、聞こえないふり。
〜〜〜
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作者名：春野菜
| 作成日時：2020年9月13日 18時
