第4話 恋(れん) 2 ページ11
石段を踏みしめる度に、忘れていた記憶が流れ込んでくる。
巷で大人気の神の力、とやらだろうか。
彼女と出会ったのは二年前。
あの頃とは、何となくだが、自分の性格も随分変わった気がする。
性格どころか素行もか。
かつては時折、授業をサボっていた。
その時に行ってたのがこの神社だ。
この場所で、何故か一人でこんな場所に女の子がいるのか?と思って眺めていた。
何故か彼女も僕の方を見つめていたので、声をかけた......ような気がする。
「どうしたの、こんな所で。こんな時間に。中学生か、高校生に見えるけど」
「私かな?うん、高校生だよ。高校一年生」
「ああ、じゃあ同い年だ」
「私に話しかけるなんて物好きだね」
「こんな時間に授業サボって。答える方も大概だ。お互い様でしょうよ」
一瞬だけ彼女は物言いたげにして、すぐに笑った。笑顔の可愛い、女の子だった。
いやに、眩しかったような気がする。
「なんて呼べばいい?」
「え?」
「名前。なんて呼べばいい?」
「ああ、それなら……」
その日から、見知らぬ彼女との、二人きりの逢瀬が、始まった。
随分と、幸せな時間だった。
「彼女」は必ず、火曜の午後二時にはここにいた。
他の日はいたり、いなかったりで時間もまちまちだったが、その日のこの時間だけは必ず会えた。
火曜の授業は特段面倒でも嫌いでもなかったが、いつの間にか、この時間は、僕自身も授業をよくさぼるようになっていた。
「××君って頭良いんでしょ、うちの県で一番の公立高校の制服着てる」
「まぁ、それは事実だね。でも、偏差値は賢さの指標にはならないよ。」
「そうでもないんじゃない。日本って、実際そういう社会じゃない。その年齢で、将来をよく見据えてる気がするよ」
くるり、と僕の前でスカートを翻してみせて、彼女は言った。
真実がどうであろうと、今までの自分を肯定してくれる人の存在は心地良い。
「××君は、将来の夢とかあるの?」
「医者、かな」
「おーかっこいい!きっと白衣が似合うね」
「似合わないよ。君がナース服でも着た方が、余程」
彼女は、歩くのが遅かった。いつも速足で置いて行っていた。
後ろについてくる彼女の表情を、あの時の僕は知らなかった。
「明日もまた来てね、私に会いたいでしょ」
「……気が向いたら、ね」
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作者名:Sei | 作成日時:2017年6月17日 9時