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2話 ページ2

――誰もいない。当然だ。足音など聞こえなかったのだから。
 少女は再び視線を落とし、特に意味もなくナイフを眺めていた。落ち着いてからじっくりと見てみれば唯一の武器は小さく、どこか頼りない。両親を殺す時、喉を切って良かったと改めて思う。そうでなければとてもじゃないが殺せなかった。

 なんだか緊張してきた。捕まることに対しての恐怖心だろうか。勿論それもあるかもしれない。向かいの壁にあった変な落書きは消されている。さっき見たばかりなのに。

「なんだお前は」

 誰かが話している。こんな真夜中なのに。散歩でもしているのだろうか。それにしても随分近くで聞こえる。
 
「いたっ」

 思わず声をあげて頭に手をやった。今、何か当たった。いや、叩かれた?

「聞こえないのか、ドブネズミ」

「ちょっと!」

 少女は勢いよく顔をあげ、『目の前の人影』を睨みつけた。

「初対面の人の頭叩いておいて『ドブネズミ』とはなに? あなた失礼だと思わない、の……」

 足音など聞こえなかった。それなのに今、手を伸ばせば届く距離に人が立っている。
よく見ると頭から足まで黒い布のようなものを被っており、辛うじて声で男だということが判別出来た。

「俺は見たままを言っただけなんだが、お気に召さなかったか」

「え、普通は嫌でしょ」

「そうか? 人間よりははるかにマシだと思うがな」

 それに対して少女は溜息を吐きはしたものの、何も言い返さなかった。これまで世間一般で言われるような『良い人間』に会ったことがないので確かにその通りかもしれないと思えてしまう。

 騙したり裏切ったり、虐めたりしない分、泥にまみれるネズミのほうがずっとマシだ。

3話→←1話 夜は朝よりも優しい



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設定タグ:死神 , ファンタジー , Twitter創作   
作品ジャンル:ファンタジー, オリジナル作品
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ラブ(プロフ) - 私の作品も見てね (2020年9月4日 3時) (レス) id: bd5d30469e (このIDを非表示/違反報告)
ラブ(プロフ) - にてる (2020年8月21日 19時) (レス) id: bd5d30469e (このIDを非表示/違反報告)
田無苑珠(プロフ) - 寝夢さん» もう一個の方も読んでくれてありがとうございます!頑張ります! (2017年5月30日 16時) (レス) id: f9f63da005 (このIDを非表示/違反報告)
田無苑珠(プロフ) - ゆるかなさん» ありがとうございます!はやめに更新出来るよう頑張りますね! (2017年5月30日 16時) (レス) id: f9f63da005 (このIDを非表示/違反報告)
寝夢 - 死神ファンタジック大好きです。もう一個の方も読みました!更新頑張ってください! (2017年5月30日 4時) (レス) id: 0c9f17ee4b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:田無苑珠 | 作成日時:2016年9月26日 22時

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