傷は深い ページ1
えっと、それから、知らない奴に会って……。
色々考えながら目だけを動かして周りをゆっくり見ていくと、黒い目と目が合った。
「……あ、起きたのか」
そう言って、自分が寝かされたベッドの近くに座っていたそいつは大きくあくびをしてから、ニヤリと笑った。
「おはよう。ところで、俺のこと分かるか？」
「……さぁ？ 知らない奴だ」
そう答えてやるとそいつは不満そうな顔をした。
「知ってるくせに。レイン君は冷たいなぁ」
「本当に忘れてたら？」
「んー、そうだな。今すぐ帰って１８人の彼女に慰めてもらうかな」
「クラウディ君も冷たいなぁ。浮気がバレて刺されろ」
「お前みたいに？」
「……俺？」
そうだ。
自分は刺されてしまったんだ。
ぼんやりしていた記憶がだんだんとはっきりしてくる。
家族の代わりにあの部屋にいたあの若い男に刺されて自分は倒れたんだ。
でも、それから何がどうなって自分はここにいるんだろう？ それがどうしても分からない。
「そう、お前だ。……あぁ、駄目だ。いや、あの、その、今回の件は……、俺が悪かった。お前にあげるべきじゃなかったんだ。本当にすまない」
申し訳なさそうにクラウディが言う。しかし、この男に謝罪は似合わないなと思ってしまう。
どうせならからかってくれた方がいい。
「謝る必要はないさ、昔からケンカは弱くて駄目なんだ。お前にだって力で勝ったことがない」
「はは、だからだ。もっと早く行ってやれば、またお前に怪我させることはなかったのになぁ……」
「そう落ち込むなよ」
「落ち込むさ。もっと壊れたら、って考えると怖いんだ」
「大丈夫。前にも似たようなことがあったが、あれより酷くはない。ただ、知らない奴に刺されただけだ。それだけ」
「……そうか、それならいいんだ」
「あぁ、それでいい」
そういえばムーンはどこに行ったんだろう。
ムーンを探そうとして、体を起こすと腹の右側に痛みが走った。
「…………痛い」
「無理するな。寝てろ」
「ん、分かった」
またベッドに寝転がると痛みはいくらかましになった気がした。
「なぁ、ムーンは……、あ」
視界の端を虫が這っているのに気がついた。
見たことのある虫だ。
上から長細く延びて、左腕に刺さっている。
「虫だ」
「虫？ どこにいるんだ？」
自分の動きに合わせて虫がグニャリと動いた。
皮膚が食い破られて、食べられ始めている。
いやだ。気持ち悪い
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秋瀬 チグ - 僕にもその文才分けて欲しいです･･･!分かりやすく、丁寧で読みごたえがありました。これからも頑張って下さい!コロナに気を付けて。 (2020年12月25日 23時) (
レス) id: 4021f55887 (このIDを非表示/違反報告)
翡翠 - 起こっていることが想像しやすい綺麗で簡潔な文章…見習いたい…そして、続きが凄く気になる！これからどうなっていくのか…無理せず更新頑張ってください！ (2020年1月2日 23時) (レス) id: 9fc4b0a5df (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：衛生兵079 | 作成日時：2018年11月5日 21時
