病気とは言わないで２

見えない医者　２ ページ34

「これ、ですか？」

　ハンマーを取って先生がいるだろう辺りに見せる。

「はい、そうです、それです。それを渡してくれますか？」

　声がするところの近くまで行って、ハンマーを差し出す。

「ありがとうございます」

　するとハンマーが一瞬で見えなくなって、持っていた手が軽くなった。

　ちょっとしてから叩くような音がし始めて、私の膝くらいの位置、何もないところから氷の欠片が現れて床に落ちた。

　それから氷がどんどん現れて床に落ちて溜まっていった。

「こんなものですかね」

　ぱきぱきという音の後にコツコツと歩くような音がして、空気の塊みたいなものが私の側を通った。

　先生がいるであろう場所には、氷の欠片と靴底の形をした氷があるだけだ。

「あっ」

「ユカあなたはここで待っていてください。後は私一人で何とかするので」

　扉の近くから声がした。

「でも」

「大丈夫、こういうことにはなれていますから。それに、あなたを危ない目に遭わせてはいけませんからね」

　扉が見えなくなる。それから扉が開く音がした後、再び扉が見えるようになった。

　診察室に残された私はただそこにいることしかできなかった。

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