氷の少女 3 ページ32
「あ」
ユキは立ち止まって音の方を見ると、驚いたような顔をした。
氷のせいで動けないから、後ろがどうなっているのか見ることが出来ない。
でも助けに来たという訳ではないと思う。音は正面入り口のバリケードのところからしている。
誰かがバリケードをどかそうとしているらしい。
派手な音を立ててなにかが崩れる。
「くそっ。なんだこれは」
あの軍人みたいな人の声。アリスさんとスラムから逃げてきたんだ。
「みつけた」
小さな声でユキが言う。
「ユキの。ユキのもの」
ユキがまたこっちに近付いてくる。
また氷が広がって胸の辺りまで一気に凍りつく。
終わりだ。そう思った。
しかし全部凍りついてしまう前にユキは私の横を通りすぎていった。
ユキが離れていくと氷が薄くなって、消えてしまった。凍っていた廊下も氷が消えているみたいだった。
氷から解放されて自由に動けるようになった。
振り返って正面入り口の方を見ると今度はあの人が棚をどかそうとしている体勢のまま凍らされかけていた。
「ずっとさがしてたんだよ? わたし、いっぱいさがしたんだよ? ねぇ、ユキのそばにえいえんにいてくれるよね?」
ユキが探していたのはあの人だったのか。
軍人みたいな人はユキのことをただ黙って見ている。
「ユキのそばにいて。はなれないで。ユキにおにいちゃんをさがさせないで。どこかにいっちゃうのはいやだよぅ……」
泣きそうな声でユキが言う。
「おにいちゃんはユキのたからもので、ユキはおにいちゃんの……、おにいちゃんの…………、なんだったんだろう……」
2人を何もできずただ見ていると、診察室から私を呼ぶ声がした。
「ユカ、ユカ。そこにいるのか?」
聞いたことのある声。ここに入院する前に聞いた声。
診察室と書かれた扉の前まで移動して声に答えた。
「……はい。い、います。けど」
「診察室に入ってきてください。足が凍って動けないんです。扉は開きますよね?」
「でも……」
「私を助けてくれたら、後は私が何とかします」
思い出した。この声はお医者さんの声だ。
私を診察したお医者さん。でもまだ姿は見たことがない。診察のときも声だけだった。
「できるだけ早くお願いしたいのですが……」
「あ、あぁ。分かりました」
氷が消えたから扉は簡単に開いた。
診察室に入ると、そこには誰もいなかった。
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ぺぽん(プロフ) - すっごく面白いです!どのキャラも個性的で読むのが楽しい🎶応援してます! (2022年8月21日 7時) (レス) @page49 id: 83a944f022 (このIDを非表示/違反報告)
ペンバタのサブ - 神作だあああああああ!!!応援してます! (2022年4月11日 15時) (レス) id: a2299a2d24 (このIDを非表示/違反報告)
頭は痛くない(プロフ) - 衛生兵079さん» 投稿しました!(返信不要です) 衛生兵079様の他の作品もいつも拝見させて頂いております...沢山の素敵な作品をありがとうございます💓😭 (2022年2月6日 17時) (レス) id: 267274e32b (このIDを非表示/違反報告)
衛生兵079(プロフ) - 頭は痛くないさん» 大丈夫ですよ。 (2022年2月6日 16時) (レス) id: fb9fb2071f (このIDを非表示/違反報告)
頭は痛くない(プロフ) - 衛生兵079さん» ありがとうございます(TT)描き終えたら私の作品の“デジタルなイラスト集”に載せたいのですが大丈夫でしょうか、もちろん衛生兵079様の作品のキャラクターだということは明記致します (2022年2月6日 14時) (レス) id: 82fde595ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:衛生兵079 | 作成日時:2018年6月9日 16時