病気とは言わないで２

食べてもいいの？ ページ20

「そうね！ 古い方はもういいわ、食べてもいいのよ！」

　もう１人の私がさらに笑う。

「食べていいんだ！ 丁度おなかすいてたんだぁ、えへへ」

　ジャックも笑う。

　食べられるの？ ここで私は食べられてしまうの？

「……嫌だ。私は」

「うるさい！」

　私の声をもう１人の私の声がかき消した。

「あなたは、私じゃ、ない、のに……」

「黙れ！ 黙れ！ 黙れ！ 私はユカ！ それ以外の何者でもないの！」

「ボクはどっちでもいいかなぁ……。何でもいいから食べたいよ」

　ジャックはのんびりとした感じで、私達を交互に見ている。

「あっちのユカを食べちゃって！」

　逃げようと思った。でも、逃げる前にジャックに腕を捕まれて逃げられなかった。

「古い方のユカ、どこに行くの？」

　笑ってない。

「お願い、離して……」

「ほら、早く食べちゃって！ 私は１人しか要らないんだから！」

　ジャックの手を振りほどこうと思うけど、私の力よりもジャックの力は強くて全然歯が立たない。

「何してるの？ 逃げないでよ。おなかすいてるんでしょ？」

「早くしてよ。私は１人でいいんだから」

　私を指差して、もう１人の私が勝ち誇ったような顔で言う。

「うん。分かってるよ。食べてもいいんでしょ？」

　ここで死ぬんだ。そう思った。

　ここに来るまでは死にたくてしょうがなかったけど、ここに来て友達が出来て、生きてるのがほんの少し楽しく思えてきたのに。

　自分のことを特別だって言ってくれた人に食べられて死ぬなんて。

　死にたくない。

　怖い。

「嫌だ」

「いいから早くしてよ！ 私は１人で十分だって何回言わなきゃいけないの！？」

　すると、ジャックが空いている方の手でもう１人の私の腕を掴んだ。

「ねぇ、ユカを食べていいんでしょ？」

「えぇ、もちろん！ 私が１人になればそれでいいのよ！」

「うん。じゃあ、食べちゃうね」
　
　私の腕を掴む力が強くなった。

「いただきます」

　とっさに目をつむった。

食べてもいいの？　２→←患者の記録　？？？

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す