白黒と疑問

知っている ページ8

俺は知っている。

　顔面を殴られ踏みつられ、爪を剥がされ、指や足を切り落とされる痛みも、人に裏切られたり救いを求めて伸ばした手を振り払われたときの絶望も知っている。

　そして、死の瞬間も、その時に抱く恐怖も全部知っている。

　だから俺には今のお前の気持ちがよく分かる。よく分かるからこそ、次はどうしてやればいいかが手に取るように分かる。

　苦しいだろ。怖いだろ。恐ろしいだろ。

　そうだ、その顔だ。その顔が見たかった。

　やっぱり良い。素晴らしく楽しい。

　いつどんなときでも他人が苦しみ、恐怖し、絶望する姿を見るのは楽しい。

「それって、本当に楽しいですか？」

　いつか誰かがそう聞いた。

「あぁ、楽しいさ。そういうものだ」

　そう答えたら、そいつは首をかしげて言ったよ。

「でも、全然楽しそうに見えない。無理して楽しいと思い込もうとしているようにしか見えない」

　って。

　そんなことない。

　なぁ、今の俺はどんな顔をしている？

　笑ってるだろ？ 楽しいから、嬉しいから笑ってるんだ。

　これは、本心だ。

　他人が苦しみ、もがく姿を見るのは楽しい。

　痛めつけられ、助かりたいと泣いて命乞いをして、さらに傷を負う。

　自分が騙されていたと知って、信じていた人に裏切られて泣いて苦しんで。

　必死に何かにすがろうとして這いずって、結局はどうしようもなく死んでいく。

　そんな姿を見るのは、この世で一番の娯楽なんだよ。

　楽しい、楽しいんだよ。

　……お前、俺のこと信じていただろ？

　たくさん助けて、励まして、ずぅっと側に居てやった。

　全部今この瞬間のためだけに。

　まぁ、そういう契約だったってのもあるけどな。

　今の顔もいいが、急に後ろからぶん殴った時のお前の顔、とても良かった。

　あぁ、苦しいか？ 死ぬのは怖いか？

　大丈夫、お前はもう助からない。

　それにしても、すごいよお前。

　右目ほじくって、鼻と左耳削いで、指全部もいで、手足の骨粉々にして、心臓と肺以外全部引きずり出したのに、気絶もせずまだ生きてるなんて。

　お前が丈夫なのか？ それとも、俺がうまくなったのかな？

　あいつで練習した甲斐があったな。

　……それじゃあ、そろそろお別れにするか。

　じゃあな、人間。

　楽しかったよ。

いない→←死因

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す