まだ失われてはいないが ページ9
未だに父親の呼吸は荒い。
「ちょっと待ってろ」
そう言って、母親の元に向かった。
さっきと同じように、首のあたりを掴んで引きずっていく。
「なぁ」
「……何だ」
ひどく怯えている。
「こいつはどこに座るんだ？」
「……私の、向かい側だ」
母親も無理矢理その椅子に座らせる。
ついでに、乱れた髪や顔、服を直してやった。汚いままじゃ可哀想だ。
「あぁ、ローズ……。何て姿に…………」
ポロポロと父親が涙をこぼした。何がそんなに悲しいんだろうか、母親は居なくなったけではない、ここにいるのに。
「何泣いてんだよ。こいつはちゃんとここにいるだろぉ？」
「……違う。もう、彼女は……」
「まだ大丈夫じゃねぇか」
「……は？」
何を言っているんだか分からない。というような顔だ。
背負っていたリュックをどさりと床に投げ捨て、父親の斜め向かい、母親の隣の席に腰を下ろした。
「雪のように白い肌、艶やかな黒い髪、細くてしなやかな四肢。どれもまだ失われていないから大丈夫だろ？ お前らの嫌いな色も出てないし、完璧じゃないかぁ。首の形は少し悪いけどもな」
「……っ、そういうことでは」
「ははは。そんなことより話をしようぜぇ？ 娘、大事なんだろ？」
父親の顔が歪む。酷い顔色だ。具合でも悪いんだろうか。
「そういえば娘の姿が見えないが、どこにいるんだ？ 家からは出てないよな」
「……娘は、この家に、は。居ない……」
机を思いきり叩いた。がたりとテーブルに置かれた花瓶が揺れて倒れる。水がテーブルに広がって、それが床にも垂れて濡れた。
手がじんじんと痛むが気にしない。
「本当か？ 俺、嘘つかれるの嫌いなんだ。嘘はつくなよ、つまらないからな。笑えない。まぁ、自分は嘘つくことあるけど……」
「あ……」
「ただ知りたいだけなんだよ。教えてくれるよな？」
「……」
長い沈黙。
父親は娘の居場所を教えたくない、といった風だった。
言いたくないなら仕方がない。無理矢理聞き出す気もなかった。後で自分で調べればいいだけだ。
「なぁ、なんか喋れよ。…………はあぁ。じゃあ別の話をしようぜ、お前のこと聞かせてくれよ」
「私の……」
「そう。幸せな家族のお父さんの話」
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慈雨 - この壊れっぷりがたまらないです！本当に大好きです！頑張って下さい！ (2018年8月1日 21時) (
レス) id: 15d4cc16a2 (このIDを非表示/違反報告)
ネギトロ@38(プロフ) - コメント失礼します。とても引き込まれ、次へ次へと読み進めてしまいました。更新、頑張ってください (2018年6月3日 9時) (レス) id: 367ddc4bce (このIDを非表示/違反報告)
柳(プロフ) - ピペットくんのぶっ飛び具合、たまりませんヾ(´∇｀)ﾉ それに、駒込ピペットから名付けるなんて羨ましいほどのセンスの高さ！素敵です！これからの展開も、楽しみしています！ (2018年5月25日 3時) (レス) id: 4785678acf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：衛生兵079 | 作成日時：2018年5月13日 20時
