雨と晴れ、人と機械

ちゃんとおはなしできる？ ページ35

「大丈夫デスカ？」

　ムーンがどこから持ってきたのか分からないケーキを食べるのをやめて、こちらに近づいて来る。

　テーブルにはたくさんの写真と、好きなケーキ屋の箱。

「クラウディが来たのか？」

　自分はあの店には入れてもらえないから、あれがあるってことはクラウディが買ってきてくれたからで、いつ、あいつが来たんだ？

　思い出せない。

　いや、覚えているはずだ。

　いつクラウディが来たか、何で血がついた服を持ってるのか、何を考えていたか。

「あはは、はは。聞いてくれよムーン」

「ドウシマシタカ？」

　手から力が抜けて、汚れた服が落ちてしまった。

　でもいいか、また拾えばいい。

「何にも覚えていないんだ。俺起きてから今まで何やってたっけ？ あ、そんなことよりお腹空かないか？ もう２日も何も食べていないんだ。そういえば、あそこの部屋に昨日猫がいたんだ。それからね、えっと……、えっとね、あの」

「あしっど？」

　頭が痛い。

　何も思い出せない。

「あぁ、そうだ。シンデレラは毒リンゴで眠りについたんだ！ 王子様はきっと、刺し殺されて長い髪を畑に植えるんだ！！」

　目の前がピンク色になってチカチカする。ぐらぐらと目眩がする。

「あしっど、何ヲ言ッテイルノデスカ？」

　駄目だ。今日は良くなかった。

　いつもより酷いぞ。

「明日の天気は？ 合ってるって、最後は本当にごめんなさい。痛いかな、ごめんね。あぁ、怖い怖いよ」

　体に力が入らない。糸が切れた人形みたいに座り込む。

　泣いているから前がよく見えない。

「あしっど、シッカリシテクダサイ」

　声がする。

　目の前にいるのは誰？ よく見えない。

　シルエットからして、女の人。

「お母さん？」

「一体何ヲ……」

「お母さん、あのね、僕ね、あはは、何やってんだ、俺。お前はムーンだろ？ それじゃあ私はだぁれ？ 私って俺だっけ？ 赤い色が嫌いです」

　楽しくないのに楽しい。

　世界がキラキラしてる。

　でも頭はぐらぐらしている。

「あしっど。あしっど・れいん！」

　誰か呼んでる？

　誰だ？

　それより、何をしていたかを思い出さなくちゃ。

　えーと、クラウディが家族をくれに来たんだ！

　そうだ！ 全部思い出したぞ！

　アダムにマリア、それからランディック！ 素敵な家族だ！ あぁ、幸せ！

　汚れた服はお洗濯！

　思い出せた、良い子じゃないか。

「あはは、は」

　急に目の前が真っ暗になった。

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