とける ページ11
あぁ。
とける。
とける。
こぼれる。
しっかりと抱き締めていたはずなのに。
腕を指の間を通り抜けて、落ちていく。
どろどろに溶けてしまったそれは、この世界では生きていけないと静かに語った。
溶けたそれは地面にゆっくり染み込んで消えていく。
少しずつ、少しずつ消えていく。
しばらくしてそれは跡形もなくなってしまった。
ごめんなさい。
全部私が悪いの。
何もなくなってしまった地面に私の涙が落ちる。
落ちた涙は地面に染みを作った。
この世界が嫌で嫌で、あっちの世界に行った時、見つけたそれはとても優しくて、私のことをこの世界の誰よりも大事に大切に扱ってくれた。
ずっと一緒にいたくて、でも、あっちの世界にいられる時間は限られていて、だからそれを私はこの世界に連れ出した。
離さないように両腕にしっかりと抱き抱えて、黒いドアを抜けて、横断歩道の下に潜って、水の中を走って、この世界に帰ってきた。
でも、帰ったとたん、それは溶けて消えてしまった。
それはこの世界では存在できない。
この世界の空気は合わなかった。
私の身勝手でそれは消えてなくなってしまった。
本当に一緒にいたかったの。
殺したい訳じゃなかったの。
この世界でも誰かに愛されたかったの。
一人じゃどうしようもないの。
私には何もないの。
ワガママな私を許して。
お願いだから、もう一度戻ってきて、大丈夫だと言って。
91人がお気に入り
「短編集」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ワモテ(プロフ) - この独特な世界観が好きです! (2022年6月28日 19時) (レス) @page4 id: d60369b53d (このIDを非表示/違反報告)
切り紙 - 衛生兵079さん» やっぱりそうでしたか!ありがとうございます! (2022年4月12日 21時) (レス) id: 3ea5ee90fc (このIDを非表示/違反報告)
衛生兵079(プロフ) - 切り紙さん» 同じお店です。女性はそのお店の店長さんです。 (2022年4月12日 20時) (レス) id: fb9fb2071f (このIDを非表示/違反報告)
切り紙 - 衛生兵079さん» あ、あっ…!上手く言い表せないんですけどもう全部好きです((それで思ったんですけど、この話の女性が開いてるお店って道案内に出てきたおじさんが言っていたのと同じですかね? (2022年4月12日 20時) (レス) @page38 id: 3ea5ee90fc (このIDを非表示/違反報告)
衛生兵079(プロフ) - 切り紙さん» リクエストありがとうございます。風、空ですね、了解しました。 (2022年4月12日 10時) (レス) id: fb9fb2071f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:衛生兵079 | 作成日時:2017年12月25日 23時