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来る ページ4

あれは、日差しの強い酷く暑い夏の日だった。

 学校の体育の時間、プールが工事で使えなくて代わりに校庭で持久走をやらされていたときだ。

 照りつける日が痛くて、肺は苦しくて、ぼたぼた落ちる汗を拭って顔を上げたとき、それがいた。

 校庭端の用具倉庫のすぐ横、倉庫によって出来た影と近くに植えてある木の影で他よりも比較的暗い場所。

 布で巻かれた妙な姿形。

 どう見たって普通じゃない。

 目が離せなくなって、私は立ち尽くしてそれを見ていた。

 向こうも布で覆われていたけど私をじっと見ていたように思った。

 蝉の声がやけに大きく聞こえて、それは実際は一瞬のことだったけれどとても長い時間のように感じた。

「おい、サボるんじゃないぞ」

 先生の声ではっと気がついて弾かれたように走り出し、再び倉庫の方を見た時にはすでにそこにそれの姿はなかった。

 夏の暑さで幻覚か、夢でも見たんだ。

 その時はそう思って、気にしないことにした。

 しかし、それはそれで終わりではなかった。

 それは翌日から私の近くに現れるようになった。

 電柱の影、廊下の奥、自室の端。

 必ず光が直接当たらない影の中、いつでもどこでも不定期に現れ、初めは離れていたのがどんどん近づいてきている。

 恐ろしく思ったが誰にも相談できず、そしてとうとうそれは私のすぐ前まで来てしまった。

 黒い布の塊が私を見ている。

「…………の、や……た………」

 何か言っているようだけど、こもっていて聞き取りづらい。

「何、何が言いたいの?」

 怖くて、私の声は震えていた。

「あ……、わ……の…………を」

「何なの?」

 布が少し解けて、それの口元が見えた。真っ白な肌で、口を開くと中は真っ赤だった。

「違う」

 低い男の人の声。

「え?」

「人違いだった。ごめん」

 そう言うとそれは煙のように消えてしまった。

 何がなんだかさっぱり分からなかったが、その日以来そいつは私の前に現れることはなかった。

 でもたまに思う、人違いだった、確かにそう言ったということは私と同じような体験をする人がこの世界のどこかにいるってことだろうか。

 人違いじゃなかったら、目の前まで来たあと何をされてしまうんだろう?

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作者名:衛生兵079 | 作成日時:2024年1月22日 1時

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