曰く付きとある収集癖

忘れ物の雨傘 ページ16

こちらの薄青の雨傘は誰かの忘れ物です。

　私がこの店を開いてすぐに置き忘れられたもので、長い間この傘立てに置かれています。

　だいぶ色褪せてしまってはいますが、ほら、開いてみると、美しい青色のお花が描かれているでしょう？

　このお花の名前はアガパンサス。あまり聞いたことのないお花ですが、彼岸花の仲間だそうです。

　花言葉は……忘れてしまいました。

　まぁ、そんなことより、こちらの雨傘もいわく付きでございます。

　……この店に来る人は多くありませんし、一度いらした方の顔は忘れない……のですが、それなのにこれを置いて行ってしまった方がどんな方だったのか全く心当たりがないのです。

　できることであれば本来の持ち主へ返してやりたいのですが誰のか分からず、雨傘を取りに来る方もおらず、どうしようか困っていたときのことでした。

　いわく付きの物を買い取る為に出掛けた先で雨に降られてしまったのです。

　一時のものだろうと物を売ってくださった方の家で雨宿りさせていただいたのですが、いくら待っても雨はやまずますます酷くなるばかりで止む気配はありません。

　すると家の方がこの傘を使ってくれと持ってきたものが、この雨傘でした。

　とても驚きました。どこかに持ち主がわかるものがないかと隅々までしっかりチェックしたあの傘だったからです。

　ですが偶然同じデザインのものを購入し持っていただけだとも考えられます。しかしこの取っ手についた特徴的な傷、この傷がその傘にもついているのを見た瞬間、間違いなく店に置かれた傘だと確信しました。

　家の方にはいつの間にかあったものだから、返さなくてもいいと言われ、私はその傘をさして帰ったのですが案の定、と言いますか、傘立てにあったはずの傘はそこにありませんでした。

　それから、私が出先で雨に降られるとこの雨傘がいつの間にか現れるようになりました。

　近くの壁に立てかけてあったり、誰かに手渡されたり。パターンは色々でしたが。

　喫茶店に居たときにはいつの間にかテーブルの端にかけてあったこともありましたね。

　その度に申し訳ないと思いながら、使わせていただいております。

　早く本当の持ち主が現れてくれるといいんですけどね。

　そうしたら、この雨傘を買い取らせていただきたいと思うのですが……。

さようなら→←古民家のすりガラス

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す