縁切りの裁ちばさみ ページ12
こちらの黒い持ち手の裁ちばさみは縁切り屋と呼ばれたある女性が使用していたものです。
縁結びの神や、おまじないなどを知っていますか？
あれは良い縁を結ぶためのものですが、それとは逆に悪い縁を断ち切るためにこのはさみが使われていたのです。
今は縁あって私の手元にありますが、以前の持ち主であるその女性の元へは毎日大勢の人間が、縁を断ち切ってもらおうと訪れていました。
この裁ちばさみを使ってどうやって縁を断ち切るか？
彼女とはまぁ、知り合いでして一度近くで見学させてもらったことがあるのですが、そのときは縁を断ち切りに来た方を座布団に座らせその人の周りを裁ちばさみを持ったその女性がゆっくりと歩き回っていました。
そして時折、何もない空間を裁ちばさみでしょきり、しょきりと切るような動作を繰り返していましたね。
1、2分程でそれは終わり、縁切りが終了します。
これで晴れて完全に悪い縁が断ち切られているそうです。
正直信じ難いですが、本当にそれで縁が切れてしまうのです。
彼女いわく、このはさみを持つと縁が見えるようになるそうで。縁を切りたい方の胸のあたりから糸のようなものがあらゆる方向へ伸びているように見えるそうですよ。
良い縁ならば金色に光り、悪い縁なら黒、どちらでもない縁は白だそうです。そしてたくさんの縁の中から黒いものだけを選び、切るそうです。
縁を切りたい人間は大勢います。そんな人たちのために彼女は毎日毎日、ゆっくり休むことなく縁を切る仕事をしていました。
しかし彼女も人間です。疲れますし、失敗してしまうこともあります。
ある日手元が狂い、良い縁を断ち切ってしまったのです。
それがその人のたった1つだけの良縁だったのに。
一度切ってしまった縁は元に戻せません。当然彼女は後悔しました。激しく自分を責め、その落ち込みようは見るにたえない程で、縁切りの仕事も出来なくなり、部屋に閉じこもってしまいました。
以降彼女とは疎遠になり、それが5年前でしたかね。そして半年前、一通の手紙とこの裁ちばさみが私の元へ送られてきたのです。
手紙には、彼女の字で裁ちばさみを私に持っていてほしいということ、それから彼女はこの世と縁を切ったということが書かれていました。
これ以降彼女からは連絡がありません。
……あ。駄目です。
このはさみだけは売り物ではありませんから、ただの私のコレクション自慢ということで。
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くろねこらいふ(プロフ) - 選ぶとしたら、豪華客船の遺物と駅のコインロッカー、忘れ物の雨傘が好きです。特に忘れ物の雨傘は、めちゃくちゃ好きです。アガパンサスの花言葉を調べて、さらに好きになりました。店主の喋り方もすごく好きです。これからも衛生兵さんの小説楽しみにしています！ (7月16日 23時) (
レス) id: 0083a1a0dd (このIDを非表示/違反報告)
ぺぽん(プロフ) - この作品とっても面白いです！一気に読んでしまいました…と言いたいところですが、深夜なので怖くて恐る恐る読んでいます😂どうしてこんなに恐怖心を掻き立てられる文章がかけるのか…本当に尊敬します。語り手の口調も好きです。これからも頑張ってください！ (7月8日 2時) (レス) @page7 id: 83a944f022 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：衛生兵079 | 作成日時：2023年7月8日 1時
