病気とは言わないで

あぁ、神様　５ ページ10

白い床に真っ赤な血を撒き散らしながら、アリスさんが倒れる。

「アリスさん！？」

　どう見たって助からない。普通の人間はそうだ。これほど血を流して、心臓にしっかりとナイフが突き刺さっている。これはもうだめだ。

　でも、彼女は死ねないと言った。

　いつの間にか床に広がる血は流れを止めて、胸に刺さったナイフがゆっくりと抜け落ちた。

　彼女は目を開いた。ふわりと微笑みながらこちらを見て、そしてふらふらと立ち上がった。

「ね、だから言ったでしょう。私、死ねないの」

　まるで手品だった。すべてがあっという間で、夢でも見てるようだ。現実ではあり得ないことが目の前で起きていた。

　本来だったら死ぬべきはずの怪我をおって、何事もなかったかのように立ち上がるなんて、トリックか何かを使わなければとてもじゃないが出来ない芸当だ。

　しかし、流れ出た血は本物で、強い鉄の臭いが食堂の美味しそうな匂いと混じり合って、気持ち悪かった。

「大丈夫？ ごめんなさいね。こういうの苦手だったかしら」

「いえ、あの、あ、大丈夫、です……」

「本当に？」

「はい。突然のことで、ちょっと驚いただけです」

「そう、でも具合が悪くなったら言ってね」

　そう言ったアリスさんの服は血でベットリと濡れていて、元々赤い服をさらに赤く染め上げていた。






　

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