医者と◯◯ ２ ページ25
２０１の近くまで来たとき、聞き覚えのある声がした。
「ユカ！ ユカ！」
嫌な予感がした。
病室に入ると、そこには驚きの光景が広がっていた。
壁紙は全て剥がされ、窓があったはずのところにはぽっかりと穴が開き、置いてあった備品もベッド一つしか残っていなかった。
なんてことだ。また食べてしまったのか。
頭を抱えた。全部揃えるのに結構金がかかるというのに……。
この部屋の状況の原因であるジャックは、部屋の中央付近に倒れ伏した少女の側で、少女の名を一心不乱に呼び続けていた。
「ジャック。どうしたんだい？」
声を掛けると、ジャックは勢いよく振り向いた。
「お医者さん、助けて。ユカがぁ……」
いつもと違って声に元気がなく、今にも泣きそうな顔だった。
少女は特に目立った外傷もなく、眠っているようだったので、緊急を要する訳ではないだろう。
これが彼女の病なのだろうか？ それともジャックのせいだろうか？
「一体何があったんだ？」
「わかんない。急に倒れたの。ばたーんって」
小学生のような表現。
それも仕方ない。ジャックの精神年齢は一切成長していない、ここに来たときの８歳のままだ。
だから、うまく説明できない。
「そうか……。ジャックは何もしていないんだね？」
そしてこちらも子供を扱うように優しく分かりやすく話さねばならない。
「うん」
「本当に？」
「本当。ユカのこと好きだからなにもしてないよ」
「その『好き』は特別な『好き』かな？」
「うん！ そうだよ！」
ジャックの『好き』には２種類ある。
好きだから食べるのと好きだから食べないの２種類だ。それがジャックの中でどういう基準で決まっているかは分からないが……。
前者はそのままの意味で、好きだから食べる。後者は『好き』の中でも特に気に入った特別好きなもの。
食べてしまえば無くなる。食べて無くしたくない。そういったものが当てはまる。
今回、この少女は後者だったようだ。
「そうか、それなら良かった」
「お医者さん。ユカは大丈夫なの？ 生きてるの？」
「うーん。見たところは大丈夫そうだが、これが彼女の病気だとしたら……」
「治るよね？ 大丈夫だよね？」
「大丈夫だとも、とりあえず今はベッドに寝かせてあげようか。そうすればきっと良くなるよ」
「よかった！ お医者さん、ありがとう！！」
本当はそれが、彼女の病気のせいではないことを私は知っていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 272人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「オリジナル」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
闇の花 - イラスト方も全部見せてもらいました！！イラストも本編も両方神です！！キャラクターに恋して見に来たらもっと萌えました♡ (2021年10月31日 21時) (
レス) id: c41fddad3f (このIDを非表示/違反報告)
玄米 - これを読むために占いツクール開いています！全部ではないですがほぼ読みました。面白かったです！ここまで読んだのはこの作品が初めてです。 (2021年1月5日 19時) (レス) id: 7e3b04a730 (このIDを非表示/違反報告)
こと(プロフ) - ジャックがすごい好きです！！面白くて一気読みしました。その後、もう一度じっくり読むと、「やっぱおもしろい……！」ってなります。神作品!!! (2020年12月23日 21時) (レス) id: 70c8834e49 (このIDを非表示/違反報告)
lkwisterven - 201号室の二人がなぜかカップルに見えてしまってあああああああってなった (2020年1月5日 0時) (レス) id: c9c05fe7f4 (このIDを非表示/違反報告)
空百合@募集企画運営のため低浮上(プロフ) - 続編移行ですね……！これからどんな患者たちが出てくるのか、患者たちの病気は治療されるのか、気になることがまだまだたくさんあります…… (2018年6月10日 7時) (レス) id: 3dba0349b8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：衛生兵079 | 作成日時：2017年10月8日 17時
