病気とは言わないで

おなかすいた　３ ページ19

「泣いて、ない……」

「ホントに？ ホント？ 大丈夫？」

　どうやらこの青年は、私のことが心配でしかたがないらしい。この短時間でずいぶんと気に入られたようだ。

「ボクが悪い？ キミのことよく分からなかったボクのせい？ ん？ キミってだぁれ？ ボクと同じ部屋の子！ キミの名前教えて！ あぁ、その前にボクのこと！ ジャック。ボクね、ジャックって言うんだぁ。ジャックって呼んで！」

　バタバタと大袈裟な身ぶり手振りで、自問自答と自己紹介を終えると、ニコニコと笑いながら私の両手を握った。

「キミはなんて呼べば良いのかな？」

「…………ユカ」

「ユカっていうんだ！」

　子供のように、彼、ジャックは私の名前を繰り返している。

　……彼についてあまりいい話は聞いていない。

　同じ部屋の子が次々いなくなったり、アリスさんがあんなに怒るようなことをしたり、職員があんなに怯えていた。それに、空っぽの病室。

　どんな人なのかと、何をされるのかと、少し怖かった。

　でも実際会ってみると、その様子はまるで子供のようで、外見と中身が釣り合っていないようだった。

「ユカ。ユカ、あのね」

　握られた両手に少し力が入った。

「……、何ですか？」

「ボクの名前呼んで！」

「名前？」

「うん。呼んで！」

「あ、ジャ、ジャック、さん」

　私の両手を握る手に、さっきよりも力がこもる。

「ジャック。って呼んで」

「……ジャック」

　そう呼ぶと、ジャックは私には出来ないであろう幸せそうな顔で笑った。

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