▼ kt ページ24
．
kaito side
廊下ですれ違う平野はいつもと違った。俺に気づくと分かりやすく動揺した。Aが補習してんのは知ってたけど、なんでそんな目が泳いでんの？なんか疚しいことでもあったの……？
「俺にも英語教えてね」
「お前は余裕だろ？」
「そんなことないよ、先生には敵わないもん」
嫌味たっぷりにそう言えば究極の苦笑い。
だって、ほんとだよ。
俺が 英語教えてやるって言ってもAは、紫耀くんがいるからいいって、その一点張りだよ。俺の出る幕ないじゃん。敵うわけないじゃん。密かな想いだって叶いそうにない。俺が一番分かってんだ、そんなこと。
だから、こんくらい許してよ。
先生よりも俺の方がAに近い存在なんだって思い知ればいい。「教師と生徒」、「生徒と生徒」じゃ、どっちが自然？後者でしょ？だから俺がこの役目を頂くよ。慰め役なんて買って出て馬鹿みたいだけど俺にはこれしかないから。
Aが教室にいないことは一目瞭然で、片っ端から探したけど、どこにもいない。
いるわけないと思って最後に回った一番奥の空き教室。椅子にもたれかかるAが泣いていた。肩を震わせながら必死に止めようとしていた。
理由はなんとなく分かってる。平野の反応が物語ってる。
そっと扉を開けて近寄る。どいつもこいつも俺を見て目が泳ぐのね、ほんと勘弁して。
不意に抱き締めたってAは何も喋らない。
ああ、もう。
俺じゃない他の奴の為に流す涙なんて見たくないよ。そんなに２人だけの秘密にしたいなら勝手にしろよ。もうさ、笑いさえ零れるよ。
俺が今、どんな気持ちでお前を見てると思う？壊れるくらいに抱き締めて俺だけのものになればいいのにって心の中では一丁前にそんなこと思ってんだよ。
「誰にも言わないから、この場所」
「……え？」
やっと言葉を発したかと思えば、Aの目には俺は映ってなかった。隣に座るAに背を向けて精一杯の言葉を探す。
「だから泣かないでよ」
泣きたいのは俺の方なんだからさ。
目頭が熱くなって、天井を仰いでも俺の想いはいつだって届かない。
だから、せめてさ、俺の前では笑っててよ。
俺の大好きな笑顔を見せてよ。いくらでも俺が慰めるからさ。
ね、お願い。
．
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 214人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：詠夢
| 作成日時：2021年8月10日 17時
