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消えてなくなりたいと思った。
どうしてそんな目で見るの。なのにどうして優しくしたの。触れられた唇に手を当てて、溢れる涙が止まらない。紫躍くんの匂いが消えない。どうすればいいの。
「こんなとこにいたの？」
「……かい、と」
ジャージ姿のまま、部活終わりの海人がカバンを持ってやって来た。紫耀くんとの秘密基地。この空き教室は私たちの場所だったのに。泣き顔を見て、察した海人は頬を撫でて私を抱き締めた。
「いつもここで補習してんの？」
「………」
無言を貫けば、体を離して優しく笑った。どんな思いでここに来たの？どうしてここが分かったの？聞きたいこと何ひとつ聞けないまま海人は隣に座った。
「誰にも言わないから、この場所」
「……え？」
「だから泣かないでよ」
海人は背を向けて、どんな表情かは見えない。小声で咳くように海人の背中は遠く見えた。
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作者名：詠夢
| 作成日時：2021年8月10日 17時
