拝啓××様 4【銀魂】

幸せな妄想 ページ10

私はブーツの両足を揃えて置くと、その隣に自分の下駄も揃えて脱いだ。


(流石に寝ちゃったかな)


そう思いながら応接間へと向けて歩みを進める。ここは5年前と変わらない空気が流れている、具体的な物は無いのに至る所に銀さんの面影が残っている様な気がした。


「…まだ起きてたんですね」


応接間に入ってすぐ、入口の柱に背中を預けて神楽ちゃんは体育座りをしていた。長く伸びた髪、銀さんとお揃いの柄のチャイナ服。傍らには番傘が置いてあった。


「今日は随分と遅かったのね」
「今日は奪還作戦があったので…その後そのまま宴会に直行なんです」


神楽ちゃんはそれを聞いて奥に消えて行くとお水を持って帰って来た。「飲んだんでしょ？」とグラスを私に手渡す。


「慣れてますね」
「どっかのマダオも良くベロベロに酔って深夜に帰って来るから」
「…成る程」


受け取ったお水を一口飲む。神楽ちゃんは「ゴリラは元気なの？」と窓の外を見つめて呟いた。


「元気でしたよ、桂さんも」
「そう…なら良かった」


神楽ちゃんの標準語もいつからか違和感が無くなった。かつては美少女だった彼女も今となっては立派な美女。スラリと伸びた美脚が月夜に照らされる。


「神楽ちゃんもまた局長に会ってあげて下さい。きっと驚かれますよ」
「暫く会ってないからね」


そう言って…私達はお互いに黙った。これ以上は彼女の前で局長の話をしてはいけない気がしたのだ。

私達の大将である局長は帰って来た。
エリザベスさん達の大将である桂さんも帰って来た。

帰って来ていないのは銀さんだけ。
万事屋の大将は未だ行方知らずだ。

私は二口目の水を飲み込んだ。喉がカラカラに乾いて、ぎゅうと締め付ける。月夜を見上げる神楽ちゃんの隣に私はそっと寄り添った。


「本当は…」


痛む喉から絞り出す、もしかしたら今日は飲み過ぎてしまったかも知れない。言うつもりの無かった言葉が喉元で突っかえた。神楽ちゃんは私に目を向けて言葉の続きを黙って待っている。


「局長を取り戻す時、…銀さんが、来てくれると。…そう思ってました」


とんだ幸せな妄想だった。局長を取り戻そうと躍起になる私達の前に颯爽と現れて「相変わらず鈍臭ェ」と不敵に笑って一緒に戦ってくれる。…心のどこかでそうなったら良いなぁなんて思ったのだ。


(ばかだなぁ…私)


視界が歪んだ。
私以上に銀さんを待つ神楽ちゃんの前では泣きたくなかった、泣いてはいけなかったのに…我慢出来なかった。

最大の絵空事→←願掛け

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す