哀愁の空色 ページ23
「そう、良かったわ」
私は暫し呆然としていた。お妙さんは「何かおかしい?」と小さく笑う。「いえ…、」と私は誤魔化すように言った。
「意外、って顔に書いてある」
「…。」
…やはり鋭い。悪戯っぽく笑うお妙さんに私は観念する気持ちで「正直…思いました」と答えた。お妙さんは私の正直な言葉にクスクスと笑う。
「そうね…私もね、驚いてるわ。前の私なら近藤さんの無事なんて聞かなかったと思うもの。多分、聞かなくてもどうせ無事かな、って」
「…え?」
「そう言える自信があったのね、私には」
それはそれで意外な言葉であった。自信を持って局長の無事を後押し出来る、お妙さんの口からそんな言葉を聞くとは夢にも思わなかった。お妙さんは微笑みながら言葉を続ける。
「こうなって…初めて分かった事があるの」
窓の外の夕暮を見つめ、お妙さんは言った。遠くの空に浮かぶ紫が、夕暮の朱と混ざり合って何とも綺麗な景色が広がっている。パレットの上で混ざり合う絵の具の様だ。
「今まで…当たり前に感じていた物が、見えていた物が、当たり前じゃなくなった。それはこうならなければ分からなかった事だわ。こうならなければ気付かなかった当たり前への幸せなのよ」
「…!」
その気持ちには覚えがある。私も銀さんを失って初めて当たり前に約束されていた物への有難さに気付いた、幸福なんだと分かった。それを気付くのに私は遅過ぎたけれど。
「毎日馬鹿みたいに会いに来るの、あの人。だから、それが当たり前になってた…だからかしらね。居なくなってしまって…、」
お妙さんが振り向く。
顔いっぱいに哀愁を浮かべて。
「寂しく、なったのかしらね」
寂しさ、憂い、心細さ、悲しみ、色々な感情の混ざり合う微笑みだった。私は未だかつてこんなにも綺麗な笑顔を見た事があっただろうか、きっともう二度と見る事も無いだろう。
私は銀さんを失うまで気付く事が出来なかった。だけど、お妙さんは全てを失う前に気付いた。そこに在る、何一つ変わらないと約束のされない幸福に…気付いたんだ。
「お妙…さん」
「近藤さんには内緒よ?こんな事言ったらまた追い回されるもの、すごく迷惑だわ」
ふふふ、とお妙さんは笑う。そして、何でも無い様に付け足された一言。
「それに…__________だわ」
その一言は本当に何でも無い様な言い方で、だけどこれ以上悲しい笑顔なんて無くて。私は…そんなお妙さんに何と言えば良いのか分からなかった。
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月ヶ瀬ましろ(プロフ) - 総悟13さん» 毎度ありがとうございます!涙…と、取り敢えずハンカチをどうぞ!!助けたいのは山々だったのですが今回はここから大きく動くので…どうなるかドキドキして頂ければ嬉しいです( ´ ▽ ` ) (2017年3月4日 21時) (レス) id: 9b1d9c93d0 (このIDを非表示/違反報告)
総悟13(プロフ) - 衝撃のラストに涙してしまいました......。こういう死の縁に立った主人公、ヒロインは助かるのが定番ですが助からないとは......本当に衝撃です。次も楽しみにしています!! (2017年3月4日 12時) (レス) id: 467c9905a7 (このIDを非表示/違反報告)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - 桃乃さん» そうなのですか…!励ましのお言葉、本当に嬉しいです。私も頑張ってこの子を皆さんに愛される子にしたいです、頑張りたいです。応援、本当にありがとうございます。最大の励みになりました!! (2017年2月22日 20時) (レス) id: 9b1d9c93d0 (このIDを非表示/違反報告)
桃乃(プロフ) - お返事ありがとうございます。私も以前、活動させて戴いてたときにスランプになりましたよー!でも、お腹を痛めて生んだ子(作品)は自分が思っているよりも凄く良い出来になってる筈なので自信を持ってくださいねー!応援してますっ! (2017年2月22日 18時) (レス) id: 3b34613ca3 (このIDを非表示/違反報告)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - 桃乃さん» コメントありがとうございます!最近少しスランプ気味で思う様に書けていなかったのでそう言って頂けて本当に嬉しいです。これからも桃乃さんに楽しんで頂ける様に頑張ります。 (2017年2月22日 11時) (レス) id: 9b1d9c93d0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月ヶ瀬ましろ | 作者ホームページ:http://twitter.com/hearty__smile
作成日時:2017年2月19日 18時