天秤 ページ23
隊長の質問に私はぐっと押し黙る。心の中では答えは出ていたが、こうして隊長に咎められれば気後れしてしまうのもまた事実で。
こくり、と小さく頷いた。
「…テメェがどんだけ馬鹿かは知らねェけど、銃ってのはな刀よりよっぽど危険なんでィ。暴発なんてさせてみろィ、一発で死ぬぞ」
「…分かってます」
「死んだら…もう何も出来ねェぞ」
「死と隣り合わせなのは皆も一緒のはずです。隊長だって…同じじゃないですか」
人気の少ない廊下で二人きり静かに時間が流れる。気まずさより、後ろめたさより、真剣にこの人の目を見つめる今の私が感じるのは強くなりたいと思う気持ち一心で。とても譲る気にはなれなかった。
「…俺は、いつかはAは真選組を辞めるべきだと思ってんでィ」
「え…?」
「今は良いかもしんねェけど…前にも言っただろィ。女には女の幸せってのがあるって」
暫くの後、ゆっくりと紡がれた言葉は普段の隊長からは考えられない程に真剣味に満ちていて。ぼんやりと庭先を見つめる瞳には揺れる木々が映っている。
「惚れた奴がいるのなら、旦那と生きたいと思うのなら…しっかり考えろィ。あの人だって本当ならとっくに死んでてもおかしくねェぐらい戦ってる。今生きてんのは奇跡レベルでィ」
「…そんなに戦っているんですか、銀さんって」
「テメェは見た事ねェかもだけど…守りてェモンが多過ぎるんだろうねィ。強ェけど、いつもボロボロになってらァ」
その言葉に不意に銀さんの姿が頭に浮かぶ。ちょっとした着物の袖口から覗き見える腕に残る大きな傷だとか、生々しい戦いの痕だとか、気付かなかった訳ではない。
失う事の怖さ。
手に入れたい物の大きさ。
天秤に掛けた時どちらが重いのか。それによって人は選択を変えてゆくのだろう。私もまた、それに従って生きるのだろう。私は…失いたくない、守ってみせる。それならば、
「隊長、私やっぱりやります」
選ぶべき道は一択でしかない。大切な人を守りたいから、一緒に戦いたいから、この場所を失いたくないから。私は逃げずに戦いたい。例え反対されようとも。
隊長は私の目を見て息を吐くと「頑固女め」と忌々しげに言い私の頭上に手を乗せる。
「隊長?」
「テメェは死ぬなよ。絶対ェ生きて帰って来い」
その言葉には何かを失った事のある人にしか分からない寂しさがあって、それは私には知る由は無いのだが。私を待っててくれる人の為に生きて帰ろうと心から違うのには十分な響きだった。
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lying doll(プロフ) - 佳菜子さん» お久しぶりです(`°ω°´)そんなそんな!勿体無いお褒めのお言葉光栄な限りです!これからもちょくちょく頑張っていくのでよろしくお願い申し上げます( ´ ▽ ` )ノ (2017年1月8日 14時) (レス) id: 9b1d9c93d0 (このIDを非表示/違反報告)
佳菜子 - doIIさんお久しぶりです!続編おめでとうございます(*´∀`*) 文章などがとても綺麗で思わずこの物語に引き込まれてしまいます(*^^*) これからも無理しない程度に頑張ってください! (2017年1月8日 11時) (レス) id: 9f42f2c5eb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月ヶ瀬ましろ | 作者ホームページ:http://twitter.com/hearty__smile
作成日時:2017年1月4日 13時